50万筆頭祭 | ナノ
「お、お待たせいたしました!元親さん……っ」
いつもとは違う足音が、玄関先で待っていた俺の元にやってくる。
鈴のついた巾着袋を揺らしながら、息切れ気味にやってきた夢子は、濃い紫色の大人っぽい浴衣を着ていた。
いつもよりも気合いの入ったような化粧と髪型を見ると、妙に心が躍る。
今夜の夢子のすべてが、俺だけのために用意されたという事実が、どうしようもない男の独占欲を満たすのだ。
「……別に待ってねぇ。ほら、行くぜ?」
「はいっ」
嬉しさでニヤケた口元を夢子に見られぬように明後日の方向を向いてから、彼女に片手を差し出す。
元気よく頷いてくれた夢子が、ぎゅうっと俺の手を握ってくれるだけで幸せが最高潮に達しそうになった。
……いけねぇ。
やっと二人っきりで、恋人のように祭りに出かけれるからって、こんな所で満足してどうするよ。
だらしない表情を戒めるように気合いを入れたら、夢子にクスクス笑われちまったのだった。
――ドォォン……パラパラパラ
「うわぁ……綺麗!」
夜空に咲く大輪に目を見開けて興奮したように感嘆の声を上げた夢子の肩をそっと抱く。
「……っ」
人混みの中、夢子が息を飲み込んだ音が聞こえた。
緊張しながらも、俺の胸元に頭を寄せた夢子は可愛い。
五月蝿いくらい鳴る鼓動の音は、きっとお互い様だ。
「……元親さんと、こうして花火が見れて嬉しいです」
「あぁ、俺もだ」
花火があがる度に漏れる歓声。
立ち並ぶ屋台から漂ってくる匂い。
一際大きな花火が打ち上げられたと同時に、俺は夢子の唇に唇を重ねていた。上を向いている夢子にそうすることは簡単で。
くちゅ、と隙間から侵入させた舌が絡み唾液の音が異様に耳に届く。
こんなにも……
周囲は花火の音と喧騒で溢れているのに、どうにも俺らの空間だけが別の世界のように感じた。
「……愛してるぜ、夢子」
そっと離した唇を今度は夢子の耳につけて囁く。それから耳朶を舐めてから噛んでやった。
……きっと、すぐ近くに子供連れの家族がいなけりゃあ押し倒してたぜ。
真夏の空と
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