50万筆頭祭 | ナノ
「……安心した女が、顔を上げたら――」
「ぎゃああぁ」
「――……まだ何も言ってないだろ」
ゆらゆらと揺れる蝋燭の火を眺めながら、無表情で怪談話を語っていたら、夢野が両目を押さえて悲鳴を上げた。
「何も聞こえない、私は何も聞こえない……」
……バカなんだろうか。否、バカだった。
目を塞いでも音が聞こえなくなることは、物理上あり得ないだろう。
混乱しすぎているんだろうが、さすがに夢野である。否、バカの代名詞である。
だが、ブツブツと念仏を唱え始めたと思えば、その念仏が気持ち悪い!やっぱ怖い!と失礼なことまで口に出しながら怯える様は、なかなか面白かった。
というより、だんだんとこの様子も可愛く見えてきてしまう。……否、ほんの少しだが。別に可愛いから、もっと怖がらせてみようかとか思ったわけじゃない。
だが、その怯えっぷりに思わずニヤリと笑ってしまった。
「ふぁあ、若くんが悪そうな顔した、どうしよう!笑顔超怖い!!」
「…………」
「わ、わかひひゅん、のみりゅ……っ」
あまりにもイラッとしたので、夢野の頬を左右に伸ばしてやった。
……何が一番腹が立つかと言えば、この間抜けでバカな女を一瞬でも、可愛いと思ってしまった自分である。
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