──その日、確かに朝からアイツの様子はおかしかった。 「…………38度3分」 「ほほう、先ほど先生が計ってくれた時より3分下がりましたぜぃ」 「下がったと言える変化じゃないだろ、馬鹿が」 上半身を起こそうとした夢野の額に手を当てて、枕へと押し戻す。 「……えへへ、若くんの手、冷たくて気持ちいい〜」 「……、……お前が熱すぎるだけだ」 ニヤニヤと間抜けな顔で笑った夢野に、一瞬ドキリと動揺してしまったが、必死にそれだけ紡いで誤魔化した。 誰もいない保健室に、冷房機の音だけが異様に大きく聞こえ、たまに閉まっている窓向こうからグラウンドの喧騒がBGMのように流れる。 同じように廊下を行き交う生徒たちの日常音も合わさるが、扉を閉めているせいと、保健室の場所柄……どこか遮断された世界のように思えた。 夢野が倒れたのは、四時間目の古典だ。 次の漢詩を読むようにと指名された夢野が、謎の擬音を発して崩れ落ちるのを俺は真横で見て――咄嗟に腕を伸ばし、華奢な身体を支えた。 その時に感じた熱は夢野の馬鹿みたいに高い体温だと思っていたが、冷静に考えれば違うかもしれないと過ぎる。 「……ねぇ若くん、白桃が食べたいよぅ」 「……苺で我慢しろ」 「わかってないなぁ、若くんのあほぅきにょこ!」 「お前、熱あるとワガママだな。後で覚えてろよ」 「ふへへ……おーぼえてーなぁーいもーん、ひひひっ」 目をうっすらと閉じたまま、甘えた声でふにゃふにゃ息苦しそうに喋る夢野にはぁっと息を付く。 なんなんだ、コイツは。本当に…… 「……可愛いんだよ。バカ女。……どうせ覚えてないんだろ」 「えー……?なに言ったぁ?悪口よくなぁいー……ん……むにゃ」 完全に眠りについた夢野の顔を見つめながら、笑っていたのは秘密で。 昼休憩から戻ってきた保険医が扉を開けるまでの話。 ――――――――― チビ様へ。 この空気に書いてる私がもだもだしました。 ……もだもだしていただければ幸い 君に微睡む[ 45 / 64 ][ 戻る ] |