庭球連載番外編 | ナノ


「深司くんっ!!お誕生日おめでとう!!」
「……わっ」

朝早くから神尾たちに呼び出されて、理由が休日だから映画館に行こうぜなんて珍しいこともあるんだなと思っていたら、いきなりこれ。

目の前に飛び出してきた詩織に冷たい眼差しを向ける。それから順に神尾、石田、桜井、内村、森へと動かした。

「なんだなんだ!深司の誕生日だから集まったんだぞ!おめでとう!お前と出会えて嬉しいから、生まれてきてくれてサンキューな!」
「あぁ、本当におめでとう。橘さんは家の用事で来れなかったけど、ちゃんとプレゼントは受け取ってるから、後で渡すな」

小っ恥ずかしい台詞を平気で口にする神尾とそれに感動しながら笑う石田たちに、はぁっと溜息を吐き出す。

「……もういいや……誕生日なんて別に特別なもんでもないと思うんだけど……別に何も変わらないしさ……でも皆が覚えててくれたのは、ちょっとだけ嬉しかったような気もするから、それは評価するよ。ありがとう」

「わー、深司くん、喜んでくれたんだ!!」
「なんか僅かでも深司がそれ口にするってのは嬉しいよな!」
「わかるー!俺も感動したかも」

能天気にへらっと笑った詩織の後に桜井と森の反応にまた溜息を吐き出した。

「……てか、なんで詩織もいるのさ……その方が驚きなんだけど」

「えー?!深司くんの誕生日を祝いたいからに決まってるじゃないか!!しかも今日は休日だしっ」

大きな声でそう言う詩織からちょっとだけ目を離す。余りにも眩しかった。

「俺が誘ったんだぜ!誕生日だしな、サービスの一環だろ」
「じゃあ神尾たちは遠慮したらいいのに……サービスならさ」
「ははっ!それはそれ!これはこれ!そこまで塩は送らないっ!」
「はいはい、結局神尾も詩織と遊びたかっただけだろ……俺をだしにしてさ……あ、なんかそう考えたらだんだん腹が立ってきたな……ムカつく」

神尾と二人でそんな話をしていたら、後ろから詩織に脇腹を擽られる。
俺はそんなに反応しなかったけど、同時に擽られたらしい神尾が変な動きをして悲鳴をあげた。

「それで何の映画見るの?」

「……あれかな」

指さしたのはホラー映画……というか、猟奇的な殺人者の話。

固まった皆の顔を見回しながら、思わず小さく吹き出した。

「……行こう、詩織」

「ひ、わ、わかったけどもぉ」

グイッと詩織の手を掴んだら、詩織が神尾の手を掴んで、神尾が石田の服を掴む……そうして芋づる式みたいに、皆引っ張れた。
こういうことをしたかったわけじゃないけど、まぁいいかなんて目を細める。

──映画を見て、食事をして。
それから今度は二人で抜け出して、プラネタリウムにでも走ろうか……なんて。

特別でもなんでもないはずの誕生日が、途端にキラキラし始めたのを、俺はきっと忘れないと思う。

11/3 伊武深司

[ 42 / 64 ]
[ 戻る ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -