──この日は、たまたま祝日だった。 部活も実質引退したようなもので。 だからこそ、暇な一日だったのだ。 メールで送られてくる誕生日祝いのメッセージに少し口元を緩ませながら、また昼前に本人によって届けられたブン太特製ケーキのことも思い出しては目を細める。 あぁ、俺は幸せもんだなぁなんて。 『もしもーし!ジャッカルさんのお電話でしょうか!!』 「はは……相変わらず元気そうだなぁ!」 突然鳴り響いたスマホの着信音にビクッとしたことを誤魔化すように笑いながら夢野に返事する。 少し上擦ってしまっただろうか、なんて考えながら妙に緊張するのは、この通話相手を好きな女として意識しているからだろう。 『あれ?なんか呆れられてる?』 「そんなことはないから安心しろ」 『はっ?!ごふんげふんごほっ!え、えっと、ジャッカルさん!』 「なんだ?」 『お誕生日おめでとうごじゃ……っございますっ!!』 「ぷっ」 噛んだ夢野に思わず吹き出しちまった。 俺のそれが聞こえたらしく、むっとしているのが分かる。 『むー、人間そんなこともあるんですよ!たまには!!』 「たまには?」 『……たまにはーよくある……』 「よくあるよなぁ」 『…………………………ジャッカルさんなんて、この後美味しい料理と美味しいケーキと楽しい時間を過ごせばいいんだ!!!!祝福の呪いをかけた!!』 プツッと、夢野がセリフを言い終えると同時に通話が途切れてしまう。 少し意地悪をし過ぎただろうか。 「……だけど、祝福の呪いって……ははっ!」 肩を震わせながら、通話終了と表示されているシンプルな画面を見つめた。 不意に心が寂しいと感じてしまうことに気づいて「ありがとう」すら言えなかったことを後悔する。 電話をかけ直そうかと思ったら、ピロンっとメッセージアプリの通知が届いた。 パンダ詩織>プレゼントは郵便受けに突っ込みましたから!よきお誕生日を!! 「……夢野」 彼女の名前を呟いてから、すぐに郵便受けへと走った。 中にあったのはチョコレート色のリボンがついた紙袋。中を開けると赤と明るい茶色の毛糸で編まれたマフラーだ。 『手編みなので穴があってもプライスレス!です!!お誕生日おめでとうございます』 そんなメッセージカードも入っていて、思わず家の前の道路を左右慌てて確認する。 勿論、夢野の姿なんて無かった。 ──あぁ、一目会いたいと思ってしまったのは欲張りだろうか。 ブラジルで生まれた俺は日本の冬の寒さが苦手だ。でも、今年は少し暖かい気がする。 温まった心がきっとそう思わせたのだと、後で思ったのだった。 11/3 ジャッカル桑原[ 41 / 64 ][ 戻る ] |