「や、柳生さんっ、大変ですっ!事件ですっっ!!」 「え、は……?」 風紀委員会の会議が終わってから、委員長である真田君と部室へと向かったら、部室の扉を開けたところで夢野さんが飛び出してそんなセリフを吐いてきた。 彼女はよくある探偵ものの助手みたいな格好をしていて、短パンとジャケットに合わせているサファリハットがとてもよく似合っていた。 あまりの衝撃に後ろを振り返れば、真田君が頭を抱えて小難しい顔をしている。 そして部室の中で倒れている人物は仁王君だ。 そして丸井くんと切原くん、桑原くんが容疑者という札を首からぶら下げて椅子に座っていた。 「仁王が殺されてしまったんだ」 「この謎を、……くっ……、ふっ、……ごほんっ!数々の難事件を解決してきた名探偵の柳生なら解けるだろう」 そう素の表情でセリフを吐いた幸村君とは裏腹に、途中明らかに吹き出しかけた柳君を眺める。 ……一体このふざけた遊びは何なんでしょうか。 大体死んでいるらしい仁王くんがプルプルと笑いを堪えているのか震えているし、丸井くんと切原くんはニヤニヤとしていて、この状況を楽しんでいるようにしか見えない。 「柳生さんっ!丸井さんが作ったケーキと赤也くんのジュースがテーブルの上に並んでいて、仁王さんはフォークを持って倒れていますっ!これは丸井さんのケーキか、赤也くんの入れたジュースのどちらかが原因では?」 「……はぁ。それで彼らが容疑者なんですね。ではもう一人の桑原君は?」 「……なんとなくノリです。数合わせてきな」 「ノリですか。では桑原君は初めから除外して推理を始めましょうか」 真面目な顔の夢野さんと会話をしながら、泣き始めた桑原君を無視する。 「……さて」 確かに仁王くんはフォーク片手にして倒れ込んでいるが、フォークにはケーキが付着していた事実はない。綺麗に銀色に輝いていた。そしてケーキは無傷だ。 そして、地面に転がっているプラスチックのコップからは緑色の液体が零れていて、一見切原君が犯人のようだが、これも違う。 なぜなら切原君のジュースはオレンジジュースで、黄色いからだ。そして、床に転がっている液体は緑。そして触ってみれば、床を汚さないようにと配慮されたのか子供のおもちゃにあるスライムだった。 「ふむ……まぁ初めから仁王君は死んではいませんので事件でもなんでもないのですが……、あえて犯人を突き止めるならば……これは完全に仁王君が犯人ですね」 「おや、どうしてそう思うんだい?」 幸村君がフフっといつものように笑いながら私に首を傾げる。 「いえ……ここに夢野さんがいて、夢野さんが仁王君の変装グッズの一つを借りているようですし……この悪ふざけを企画した犯人は仁王君でしょう、というだけですよ」 「……プリッ」 死体役の仁王君が上半身を起こして小さく肩を竦めた。だがその瞬間にニヤリと彼の口角が上がる。 「残念じゃが」 「それはハズレですー!!」 パァァンっと、仁王君と夢野さんの声に続いて一斉にいくつものクラッカーの音が鳴り響いた。 「企画考案者は夢野詩織でした!えへへっ、お誕生日おめでとうございます!!柳生さんっ!!」 「「おめでとう!!」」 振り返ったら、満面の笑みで夢野さんが笑っていて。 いたずらっ子のように白い歯を見せて笑う彼女は、まるでどこかの映画のワンシーンのようだった。 「ケーキは俺が作ったんだぜ!!すげーだろぃ?」 「ジュース以外にも、柳生先輩のために紅茶色々取り寄せしたっす!!跡部さんにも協力してもらったんすよ!」 丸井君と切原君の自慢気な笑みにもつい口角が緩んでしまう。 「……誕生日パーティのちょっとした余興は楽しんで頂けました?」 「……そうですね」 ──とても。 そう紡ごうとした言葉を飲み込んで、私はそっと夢野さんの唇に人差し指を添えるように当てた。 「……ネタバレは禁止ですから」 囁かなお茶会の誕生日パーティ。 大好きな貴女と、大切な仲間たちに囲まれて。 これほど幸せなことはあるでしょうか。 10/19 柳生比呂士[ 40 / 64 ][ 戻る ] |