庭球連載番外編 | ナノ


「さぁ……存分に楽しんでいけよ!」

「……なんで祝われる主役がパーティー主催して招待客を楽しませとんねん……なぁ?」

「わ、私にそんな流し目で尋ねられましても……」

乾杯のグラスを掲げていた手を下ろしてから、そんな会話をしていた忍足と夢野へと視線を向けた。

「あーん?これが俺様流の誕生日パーティーなんだよ。なぁ、樺地」
「ウスっ」

大きく頷いた樺地に満足気に微笑んでから、もう一度忍足たちを見れば呆れたような顔を浮かべてから、くすりと小さく笑う。

「ま……跡部らしいといえば、跡部らしーわ」
「うんうんっ!だよねだよねーっ!!詩織ちゃんも笑ってるってことはそう思ったってことだCー?!」
「うお、はいっ!右に同じですっ!」
「だよねーっっ!!」

ジローに飛びつかれて転びそうになりながらも、夢野は間抜けそうな笑顔で白い歯を見せた。その表情が嬉しかったのか、またジローはテンションを上げてぎゅうっと強く夢野を抱き締める。

「クソクソ!ジロー!抱きつき過ぎだぞっ!!」
「そ、そうですよ!芥川さんっ、詩織ちゃんの首が絞まりかかってますっ!ですよね?!宍戸さんっ」
「え、あ、おう。うっかり夢野を殺すなよ、ジロー」
「Aー?!そんなことしないCーっ」
「そう言っても、夢野のアホが青白い顔になって笑えることになってますが」

いつものように賑やかになっていく周囲をただ黙って見つめた。

「わ、若くんっ!だ、誰がアホなのかなっ?!」
「お前だ」

キッパリと吐き捨てるように言った日吉の真顔に対して、キィーッと小猿のように両手をバタバタし始めた夢野にため息をはき出す。

「……景吾くん、溜息吐きつつも……表情は幸せそうだねぇ」
「……萩之介」

声のした方向に視線を動かせば、ニヤリと意地悪そうに口角を上げた萩之介が立っていた。
今日は和装かと思っていたが洋装だった萩之介は、口元に手を持っていくともう一度クツリと喉を鳴らす。

「……気味の悪い笑い方してんじゃねぇよ、てめぇは」

コツンっと萩之介の額を小突いたと同時に、背中にドスッと夢野がぶつかって来た。

「……わわっ、跡部様!申し訳ありません!でも悪いのは全部若くんですっ!!」
「なんで俺なんだ。突撃してきたお前を避けただけだろ」
「避けたから跡部様に体当たりしちゃったんじゃないかー!!」

また俺を差し置いてギャーギャーと喚き出した夢野を一瞥してから、この場に集まりだした他の招待客たちの姿を確認する。
他校のテニス部たちが集まってきていた。

「……ちっ、夢野」
「へっ?!」

何がそんなに煩わしかったのだろう。
どうしてそんな行動に出たのかもはっきりときっかけのようなものはわからない。

ただ──

「今日の主役は俺様なんだろ」

「も、もちのろんでございますですが!!」

「……じゃあ諦めろよ?」

チュっと態とらしいリップ音を鳴らして、俺は横にして抱き上げた夢野の額に唇を落とした。
途端に「ひぎゃー?!」と真っ赤な顔で悲鳴を上げた夢野に目を細める。

面白くなさそうな顔した数人を見回してから、自身の表情を緩めた。クツリと口角が上がり、喉が鳴る。まるで先程の萩之介の気持ち悪い笑い方そのものだった。

「……あ、あ、あ跡、部べべ様」
「誰がべべべ様だ」

俺の返事にポカンと口を開けたまま固まった夢野の間抜けな顔を見下ろしながら、今度は鼻で笑う。


──ただ、今日はお前を独占する権利ぐらいあるだろうと、そう子供じみた思いを抱いただけなのだ。

10/4 跡部景吾

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