「岳人先輩岳人先輩っ」 「んあ?」 俺の誕生日を祝ってやると跡部が生徒会の会議室の一室を貸し切って、いつものメンバーが飾り付けてパーティーをしてくれたんだけども。 声をかけられて振り向いた瞬間に口の中に放り込まれたケーキに目を見開いた。 目の前ではキヒヒと悪戯っぽく笑う詩織がいて。 そのしてやったり顔が腹たってペシンっと詩織の額を平手で殴る。 気持ちがいいぐらいいい音が鳴った。 「ふがっ!!……っんぐっ、んん!っ、はー!いきなり何すんだよ!クソクソ詩織のアホっ」 「ちょっとした悪戯じゃないですかー!……ところでお味はいかがでした?」 「今のケーキ、詩織ちゃんの手作りらしいで?」 手に持っていたジュースで流し込んで、必死に言葉を紡いだらそんなことをいわれる。 首を傾げた詩織に言葉を詰まらせていたら、侑士が続けてきた。 だが、俺はついっと視線を持っていたグラスへと向ける。プクプクと泡立つそれは炭酸飲料だ。 「……慌てて炭酸で飲み込んだから味なんてわけわかんねー」 「ぬっ?!」 「はは、やろうなぁ」 ショックそうな顔をした詩織と目を細めて軽く笑った侑士の反応を見て、とりあえず侑士の脇腹を擽っといた。 「……いやいやなんでやねん」 「なんとなくムカついた!」 「えー……」 眉間に皺を寄せた侑士を無視して、詩織に向き直る。 「……もう一回」 「へ?」 「だーかーらー、もう一回食べさせてみそ!」 今度はしっかり味の感想言ってやるから!なんて偉そうに腰に手を当てて鼻息荒くしたら、詩織が微妙そうな顔してから小さく吹き出した。 「岳人先輩は年を取っても岳人先輩でしたー」 「はぁ?!バカにしてんのか!」 むっと唇を尖らせて、詩織の耳を引っ張ったら「あははっ、ごめんなさい!ほらアーンしてください」と訴えられる。 「あー……」 口を大きく開けて待ってみた。 恥ずかしくなったので目を閉じてみる。が、それを後悔してもその時には遅い。 「や……か、可愛い……っ!」 口の中に甘さが広がってもぐもぐと口を動かしながら目を開けたら、詩織が恍惚そうな表情で俺を見てた。 「……向日さん、小動物みたいでしたよ」 ふっと詩織の横で鼻を鳴らして馬鹿にしたような口調で笑った日吉にイラッとする。 「写真撮りましたっ!」 「はぁ?!」 だけど、それよりもキラキラした顔でそう言った詩織の方が重要だ。 「クソクソ詩織!消せ!!」 「やです!!アーンして目を閉じてる岳人先輩天使みたいに可愛かったので、絶対消しません!!」 「お前!俺、今日誕生日だぞ!」 「では零時過ぎるまで逃げ切ったら私の勝ちですねっ!ふははははっ!」 悪の大魔王みたいな笑い方して、スマホを握りしめながら部屋の中をくるくる逃げ回る詩織。そしてそれを追いかける俺。 その様子を呆れてみてる跡部たち。 ──……まぁ、こんな誕生日も……正直悪くは無い。 なんて。 そんなことをぼんやりと思ったら、いつの間にか口角が上がってて、俺は笑っていたのだった。 9/12 向日岳人[ 37 / 64 ][ 戻る ] |