「東方、誕生日おめでとう!お前がダブルスパートナーで本当に嬉しいよ」 そんな穏やかに笑う南の声を聞きながら、少し感動してしまって潤んだ目元を隠すように額に手をあてた。 「東方〜、ほらほらどう?綺麗に飾り付けしたと思わない?」 千石の楽しそうな笑みも、新渡米と喜多が同時に鳴らしたクラッカーの音も、それに驚いて転んだ壇やその壇の腕を掴んで引っ張りあげた亜久津も。 俺のためにこんなパーティーの席を用意してくれたのかと、また目頭が熱くなる。 「東方副部長。どうぞ、座ってください」 室町の声に「あ、あぁ」と小さく頷いてから、落ち着かないど真ん中の席に腰掛けた。 錦織を代表に何人かの部員たちからも歌をプレゼントされる。 妙に気恥しさが募ってソワソワした。 「ふふふっ、サプラーイズ!!」 そして部室に夢野さんが登場したので、大層驚く。 見慣れている氷帝の制服ではなく、ふわっとした女の子らしいブラウスに下はジーンズの短パンで。 なんだかパンツスタイルは珍しいなぁなんてぼんやりと思った。 「ふふふ。アレね。室町くんが指示したらしいよ。ほら、今日初顔合わせの部員多いから。初対面だと転ける可能性が大いにあるからね!俺はスカートで転けて貰ったほうがラッキーだったけどっ」 「千石さんっっ」 室町に肩を掴まれてガシガシと揺らされている千石を横目で見ながら、ヴァイオリンを奏で始めた彼女へと耳を傾ける。 緩やかに奏でられたそれは、一体何の曲だっただろう。 静かな美しい景色を表現したような曲は聞いたことがあるような気がしたけど、でも全然思い出せない。 だけど、ただ心地よいと感じるそれだけで十分だった。 「東方さん!改めましておめでとうございます!これ、プレゼントです!」 「あれ?!プレゼントはてっきりさっきの演奏かと……」 俺が目をぱちぱちさせて言ったら、夢野さんも同じように目をぱちぱちさせていて。 やがてそれがにひーっといたずらっ子みたいな笑みに変わる。 「さっきの、ヘンデルの組曲、水上の音楽、気に入って頂けていたんですね!良かった!」 「あぁ……やっぱり聞いたことのある名前だ」 「ふふ。でも、こちらも受け取っていただかないと困りますよー」 「……ありがとう」 手渡された可愛らしい包装袋を受け取って、きちんと礼をいう。 夢野さんは眩しそうに目を細めていた。 それから開けてもいいかいと尋ねて、頷いてくれた夢野さんを見てから、そっと包装を外す。 出てきたのは、パンダのアイピローと白檀の香りがする線香と透明なガラスでできたオシャレな線香立て。 ──今日はよく眠れそうだ。 なんて考えてたら、千石にパンダアイピローを着用させられて、写真を撮られてしまった。 南まで一緒になって笑っていたので、どうやら相当おかしかったらしい。 9/10 東方雅美[ 35 / 64 ][ 戻る ] |