「今から裕次郎の誕生日祝うんやけどー、やーも来ればいいさぁ」 「へ?!知らなくて何もご用意してないんですけども!!」 凛のセリフに目を見開きながら、夢野がパタパタと両手を振って慌てていた。 跡部が用意してくれたホテル入口前でたまたま出会った夢野を捕まえただけなのだが、会えた時は嬉しいと思った気持ちが少しだけ沈む。 ……やっぱ、知らなかったよなぁ……。なんて拗ねたように髪の毛の先を触った。 情けないけど、わんの誕生日を夢野が知らなかったという事実がひどく悲しい。 落ち込んだところで「ぐあーっ!!」と叫んで頭をかいたら、目の前で夢野と凛が目をぱちぱちさせながら、変な目でわんを見てる。 「あ、あのー、甲斐さん、お誕生日おめでとうございますー……」 そう恐る恐る呟くようにわんに向かって首を傾げた夢野は、俺が怒っているとでも思ったのだろうか。 余計にかっこ悪い。恥ずかしい。 「ち、違う……違うさぁっ!別に拗ねてるとかじゃないやしっ」 「はー、拗ねてるんさぁ」 「凛!!」 わんを見てニヤニヤしている凛に怒鳴ってから、夢野の困り顔の額にデコピンをした。 「と、とりあえず、美味しいもんいっぱいあるさぁ。食っていけばいいやし」 「……わぁそれは楽しみです!!」 そう微笑んだ夢野にうっかりまたドッキリして。 後ろでまた凛がニヤニヤと目を細めて口角をあげていることに気づいた。 だから軽く凛を殴ろうとしたけど、するりと避けられるのだった。 ──そして部屋に戻ったら永四郎たちがホテルの部屋を軽く装飾してくれていて、既に慧くんが料理に手を出していたけど、お祝いをしてくれた。 その後すぐに夢野がヴァイオリンを弾いてくれる。 「あ、あれ?やー……いつの間に……ヴァイオリン」 「ふふ、知らないとか嘘なんです!実は全部知ってましたとも!!」 「え……」 甲斐さんのお誕生日が今日であることも。 誕生日パーティーがあることも。 全部知ってたんですよー。 そう笑った彼女はとても綺麗で。 「……ひえ?!」 「ぶわははは!永四郎、裕次郎のやつ泣いてるさぁ!!」 「田仁志くん、口から食べ物のカスが飛んできましたよ。……まったく」 ポロポロと零れた大粒の涙は、慧くんだけじゃなくて、凛や不知火、寛くんにもバカにされたんだけども。 ただただ、わんは…… 嬉しかったんだ。 8/27 甲斐裕次郎[ 34 / 64 ][ 戻る ] |