「あ!赤澤部長、お誕生日おめでとうございます!」 「おー、ありがとうな!」 廊下であった金田の第一声に笑って返事を返す。 親も若干忘れていたそれを覚えていてくれる後輩がいるのは、ちょっと嬉しいなとか思った。 「んふっ、赤澤くん。お誕生日でしょう?寮でパーティをしようと思いまして。ぜひ柳沢くんの部屋に来てくださいね。間違っても部活の後そのまま帰らないように」 「観月は流石だなー。皆の誕生日完璧だもんな……」 それから昼、部活の休憩時に観月にそんなことを言われて、俺の誕生日を祝おうとしてくれるんだなと頭が下がる思いになる。 観月は口煩くて、ちょっと……いやだいぶ面倒臭い性格をしているが、実は面倒みが良くて部員の管理やその他諸々世話になりっぱなしだ。 だから、コイツが言うことには皆逆らわない。それが一番いい結果に繋がることを知っているからかもしれない。 それから部活終わりになって。 ふと、携帯電話にメールが届いていることに気づいた。 《赤澤アニキっ、お誕生日おめでとうございます!実はお渡ししたいものがあるので、正門前でお待ちしております!》 夢野からか。 まさか俺の誕生日を知っていてくれたのか。とちょっと瞬きを繰り返した。 一先ず、先に着替え終わって寮に向かっていた観月に少し遅れるとだけメール連絡してから、正門前へと急ぐ。 「……あ!」 氷帝の制服に身を包んだ夢野が挙動不審にキョロキョロしながら正門前で立っていて。 俺の姿を目にした瞬間に満面の笑みで「赤澤アニキーっ!」と手をぶんぶんっと振ってくれる。 だが……やたら注目されるから、ちょっと待ってくれ。 意味深な視線を送ってくる他の登校していた生徒達から目を外し、夢野の元へと足を早めた。 「……本当にお前は……」 「はっ!赤澤アニキの目がアホの子を見るような目に……!」 「いやそこまでは思っていないが……ん、いや思ってるかもな」 「がーん!」 「……普通はたぶん、それを口には出さないぞ」 「ひでぶっ?!」 「おいおい」 呆れ気味に夢野の額を小突く。 目を細めた夢野は「あ、これ!おめでとうございますっ」と俺にプレゼントらしき包装箱を渡してきた。 「ご、ご趣味がスキューバダイビングだと聞いたもので……た、大したものじゃないんですけど」 「おお?!ありがとうな!」 まさか趣味まで知ってくれているとは思わなかったなと驚く。 開けてもいいかと尋ねてから、俺は包装紙を破った。 丁寧に包装されていたもので慎重にやった方が良かったのかもしれないが、勢いでバリッといってしまう。 「……おぉ、これは!」 海を閉じ込めたような蒼がキラキラとした、ガラスドームの首飾り。 「ははっ、ありがとうな!!」 バシッと夢野の肩を叩いたら、ちょっと強かったらしく彼女は変な奇声を上げていた。 まさか俺にこんな物をくれるとは思わなかったが……。 俺が喜んだのが嬉しかったのか、ニコニコしている夢野の頭を撫でる。 「あ、アニキ、私、これで失礼しますね!パーティ楽しんでくださいねっ」 「え……、おう」 そう笑ってから、手を振って去っていく夢野の後ろ姿をしばらく見送っていた。 観月にでも聞いたんだろうか。 ──お前も一緒にどうだ? そう言いたくても寮に女子をあげる訳には行かないなと思って、諦める。 手に残った小さな海の世界を太陽に透かしながら、そっと目を細めた。 ──今日は、とても幸せな一日だ。 8/3 赤澤吉郎[ 31 / 64 ][ 戻る ] |