「一馬くん、お誕生日おめでとう!」 校門前で夢野さんが待ってて、そう俺に向って笑ったから思わず「ぶほぉっ」って吹き出してしまった。 「ちょ、な、なんで笑われたの?!」 肩を小刻みに震わして呼吸困難に陥っている俺に、夢野さんがクエスチョンマークをたくさん散らして首を傾げている。 「…………い、いや、まさか俺にこれが来ると思わなかったから」 校門前で他校の女子生徒が待ち伏せしてて誕生日を祝ってくれるとか、俺の人生で起こりえないことだろうとずっと思っていたし、もし起こったら一週間ジュース奢ってやるぜーって昨日新渡米さんがいってたんだよなー。 「そうなの?でもはいっ、プレゼント」 「あ、ありがとう。……こういう時って、開けてもいい?って言うんだっけ?」 「あはは、開けてもいいけど大したものじゃないよ?」 恥ずかしそうに微笑んだ夢野さんに思わず目を細める。 彼女は無意識なんだろうけど、男心を擽るその表情が狡いなぁなんて思った。 もう既に心奪われている奴らを知っているので、これ以上踏み込んだらヤバいと思っているから惚れたりはしないけど。うん、しないはずだ。 「あ」 「ん?どうしたの?」 キョロキョロと校門前で通り過ぎる生徒たちを見回す。 よし、室町はいないな。 「……夢野さん、本当に気をつけた方がいいよー」 「ん?何が?」 「俺が夢野さんのこと好きになっちゃったらどうすんのー?」 「……困る」 「正直だねー」 「……だ、誰でも困るよ!!一馬くんだけじゃなくて!本当にっ」 えらく慌て始めた夢野さんを見ながら、袋を開けたら家庭菜園の野菜の種が色々入っていて、可愛いスコップも入っていた。 「逆に聞くけど!わ、私が一馬くんを好きだって言ったら困らない?!」 夢野さん段々大きな声になってるの気づいてないんだろうな。 通り過ぎる皆が俺らをじっと観察してた。 そりゃそうだ。 氷帝の制服なんか目立つ。 だってあそこ金持ち学校じゃん。 氷帝のお嬢様が俺に誕生日プレゼントとか噂になるんじゃないかと思う。 「んー……困る」 「だ、だよね?!」 「……でも、嬉しいかな♪」 ニコッて歯見せるぐらい満面の笑みで答えたら、夢野さんの顔が面白いくらいに真っ赤になった。 「わ、私、もう帰るっ!一馬くん、お誕生日おめでとうでしたっ」 そう言って逃げるように走り去っていった彼女の後ろ姿を眺めながら、ふっと小さく笑みを零す。 ──野菜が育ったら、サラダでも作って夢野さんに食べてもらおうかな。 なんて、そんなことをぼんやりと考えた。 7/26 喜多一馬[ 30 / 64 ][ 戻る ] |