「俺、今日、誕生日なんッスよ!」 「おめでとう、桃。ちゃんとプレゼント用意してるよ。はい」 部活始まりに不二先輩に誕生日であることをアピールしたら、ちゃんとプレゼントを用意してくれていたらしく、青い包みを手渡される。 おおー、流石不二先輩だぜ! 礼を述べて「開けてもいいっすか?!」って大声で喜んでいたら、他の先輩らからもプレゼントを手渡されてしまった。 海堂や荒井まで俺にプレゼントを用意していたらしく、ちょっと……いやだいぶ感動してしまう。 生意気な越前は「おめでとうっす」と言って、帰りにエビカツバーガー奢りますよと不敵に笑っていた。 そんなこんなで部活も終わり、越前からもゴチになった俺は大変満足だ。 持つべきものは仲間だよなーとか思いながら、越前の家の前で越前とも別れた。 それからふと、スマホをマナーモードにしっ放しだったことに気づく。 今日の授業中に誤って音が鳴ってしまって、やべぇと思った俺は、マナーモードのサイレントに変えていたのだ。 自転車を手押ししながら歩いていたのを道の端っこに停めて、スマホを確認してみた。 「……おわっ?!」 自分でも素っ頓狂な声を上げたと思ったが、仕方がない。 画面通知にて、夢野から着信と数個のメッセージが来ていたのだから。 慌てて、メッセージもろくに確認せず、俺は夢野に電話をかけた。 『……はい、もしもーし』 何回かのコールの後、夢野の声がスマホ越しに聞こえてくる。 その声に不思議と心臓の音が大きくなった。 冷静になるために、じっと上を見上げて街灯の光を見つめる。 「あー……なんか連絡くれてたんだよな?サイレントにしてて……」 『あー!メッセージも送ったんだけど、お誕生日おめでとうって伝えたかっただけだからー大丈夫だよー』 「お、そ、そうか。それはサンキュー!」 耳元で聞こえる声が擽ったくて、俺の誕生日を覚えててくれたことが嬉しかった。 『えっと、メッセージにも送ったんだけどもー、桃ちゃん、弟さんと妹さんがいたんだねぇ。桃ちゃんというお兄さんがいるって感じの子たちでめっちゃくちゃ可愛かったよ。癒されたー』 「……ん?!ど、どういうことだ?!」 思わず夢野の言葉に驚いて大きな声を上げてしまった。 チカチカとしている街灯の向こう側の空はもう既に真っ暗で。 部活終わりに越前と寄り道して奢ってもらったバーガー屋ではだいぶ時間を潰したから、すっかり遅くなってしまっていた。 『え?メッセージにも送ったけど、私、桃ちゃんちまでプレゼントを渡しに行かせてもらったんだけど……何故かついさっきまで夕飯をご馳走になっちゃった……あはは』 あ、住所はね、薫ちゃんやリョーマくんに聞いたからと続けた夢野の台詞にピクリと動きが止まる。 ついさっきまで一緒だった越前のやつ、全部知ってやがったのか。 夢野が俺の家にわざわざプレゼントを届けに来ることを。 「あ、あいつ、わざとだな!だからあんな笑い方してやがったのか……っ」 『んん?桃ちゃんどうしたの?……あ、プレゼントは大したものじゃないからね。えっと、お母さんたちに預かって頂いているので』 電話向こうで何も知らない夢野の声がやけに遠く感じる。 本当に惜しいことをした。 大人しく帰っていれば、夢野が俺の部屋に入っていたかもしれないし、俺だって夕食を一緒に食べられたかもしれねぇのに……! 『あの、じゃあ私、マンション着いたから……電話切っても大丈夫かな?』 「あ、あぁ……その、今日は本当にサンキューな!!後でまたプレゼント受け取ったら連絡するっ」 『うん、わかった。お風呂入ってるかもしれないから、メッセージでも構わないからね!』 「お、おう、わかった!じゃ、また後でな!」 『はーい、また後で』 クスっと少し夢野が笑ったような気がしたけど、とりあえず通話を切ったスマホをポケットに入れてから、自転車のペダルに体重を乗せた。 あー、本当にやってらんねーぜ、やってらんねーよ! 家に帰りついて、ニヤニヤ俺を見ている母親から夢野のプレゼントを受け取る。 弟と妹も興味津々と言った様子だったが、あまりにも恥ずかしくて自室で開けることにした。 「…………手作りケーキ」 ペロッと指で生クリームを一口すくって舐めたら、すっげー甘い味が口内に広がる。 チョコペンで描かれた「桃ちゃん、お誕生日おめでとう」って字が、漢字のとこだけ潰れてて、下手くそだなぁって思いつつ、俺は一人で笑ってた。 それから直ぐに夢野に電話をかける。 今日はすれ違ってばっかだったけど、この電話だけはまた繋がる事を祈ったのだった。 7/23 桃城武[ 29 / 64 ][ 戻る ] |