庭球連載番外編 | ナノ


──言うて、もう十四やで?
誕生日なんか、そない両手上げて喜ぶほどのもんじゃないやろ。

とりあえずオカンとオトンのおめでとうをありがとう言うて普通に返しながら、飼い犬の頭を撫でた。

小さな庭から空を見上げたら、夏の日差しが余りにも眩しくて。
これから学校行って、つまらん授業受けて、部活行ってまたつまらんボケを聞かなあかんのかとため息をつく。

……詩織にやったら、祝われたいんやけどな。

そんな台詞は飲み込んで、メッセージアプリに詩織から何もメッセージが来てないことに深い溜息を吐いた。






「短縮授業やから余計眠かったっすわ」

部室に向かう廊下であった小石川副部長に「財前、今日の調子はどないや?」と尋ねられたから、イヤホン外してそう答える。
それからまた部室へと足を向けたら、また「あ、あのな!」と声をかけられた。
顔を見れば冷や汗垂らしながら、吃ってて。

「あー……」

わかり易過ぎやろ……と冷めた目で見てまう。
明らかに時間稼ぎ。
そうやわ。
誕生日いの一番におめでとうさん!とか絶対言ってくるであろう浪速のスピードスターとかいうヘタレな先輩見とらんわ。
あと完璧過ぎの部長が部員の誕生日忘れてるなんてあらへんもんなぁ。

「と、とりあえず、俺と世界平和について語らへん?!」
「小石川副部長、アホにも程があるっすわ。そんなん語らんに決まっとるやろ。……はぁ、でも今あのドタバタ音する部室に入るんは野暮やし……しゃーないっすね。ジュース飲みましょか」

部室手前にある自販機を指す。
勿論、奢りっすよね?って口角を上げたら「お、おう」と副部長が泣いとった。


それから暫くしても、部室から聞こえる賑やかな声が一向におさまらんくて。
小石川副部長の顔がだんだん青くなっていく。
オモロ……と思ったんで写真を撮ったが、いい加減この夏空の炎天下で主役を待たせてどないすんねんとイライラしてきた。

金ちゃんの笑い声と、ホモップルのキモイ声も聞こえてきて、ええ加減にしろやと自販機横のベンチから席を立つ。

「あ、あ、財前、ちょ、もう少しだけ待ったって?!」
「は?嫌っすわ。もう暑いねん。あいつら絶対俺のこと忘れとるに決まっとる」

なんで俺が冷房も効いてないとこに長時間おらなあかんねん。いや弱冷房ぐらいやないと、また文句言うけどな。

ガチャっとノブを回して「ちわーっす」と声を出した。

「うわ!財前やっ」
「小石川何しとんねんっ」

とか聞こえて、めっちゃウザい。

「え、わ、ひゃっ……!」

やけど、そんな中に小春先輩やない、明らかに女子の声が聞こえて、開けた瞬間に真っ暗闇になった部室の中を凝視する。
でもよぉ見えへんから、腹立って部室の電気スイッチを押した。

「……何しとるん」

「あは、あはは……」

部室の真ん中で逃げ遅れたかのように詩織が転んでて、飾り付けの途中やったんか、色んな色のテープが全身に絡まっとる。
丁度頭に絡まってる黄色のテープが大きいリボンみたいに結び目がついてた。

壁際に口笛吹くように唇をとがらせている先輩らが見えるし、師範は部室の冷蔵庫に何か慌てて隠してたし、金ちゃんが千歳先輩に肩車されとって天井にガンって頭を強打してたけど、そんなんどうでもええわ。

「なんでここにおるん?」
「えへ、お祝いしたくて跡部様という名のどこでもドアで」
「言うて、自分、飛行機系は乗られへんやろ」

新幹線で二時間いうてもここまで来るのに三時間以上はかかるやん。

いや、今はそれより……


「お誕生日おめでとう、光くん!」


そう床に座り込んで笑った詩織をぎゅっと抱き締めた。


「ざ、財前っ!」
「謙也さん、煩いっすわ。せやかてこのプレゼント用意したん、自分らやん」
「プレゼント……?」

首を傾げた詩織に「せやから自分プレゼントやろ」って耳元で呟いてから、詩織の首元に顔を埋める。

──勝手に期待して、勝手に落ち込んでた己自身がめっちゃアホらしくて。でも情けないことに、ホンマに滅茶苦茶嬉しかったんや。

……埋めた肌から優しく甘い匂いがして、あぁ……落ち着くって思った。
チュッと首筋に吸い付いて、キスマークを付ける。


この後先輩らが「そ、それはプレゼントやないわ!!アホっっ!!」と同時に叫んでたけど、知るか。


……あぁ、めっちゃ食べたい。
大好きな甘い匂いにそう思った熱は、いつか詩織に返したい。


言うて──俺もう十四の男やからな。

7/20 財前光

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