「ほい、兄ちゃん!宅配物だっちゃ!」 「おー、俺宛か?珍しかねー。ミユキ、ありがとうなー」 妹のミユキから受け取った宅配物ば受け取ってから階段ば上り自分の部屋に入る。 乱雑に色んなものが並んだ机の上からお目当てのハサミを取って、適当に切り込み入れて段ボールば開けた。 「……あ」 誰からやったっけ。 いかんいかん、確認すらしてなかったばい。 「…………なんね、夢野詩織って夢野さんばい」 俺宛に? 俺、別にあの子になーんもしとらんような……。 それか、また知り合ったテニス部皆に何かお守り的なアレやろうか?と頭ば傾げてから、中ば確認した。 「……トトロのヌイグルミばい。しかも葉っぱの傘持って……むぞらしかー」 葉っぱの傘のシーンは好きだが、それのヌイグルミは持ってなかーと嬉しさで口元が緩んだ。目もきっとニコニコしていたに違いない。 「……だばってん、なして?」 突然こればくれたんやろうとまた頭ば傾げた。 それから中に入ってあったパンダの絵が描かれた封筒ば取り出してから、中の手紙を読む。 ──千歳さんへ。 お変わりなくお過ごしでしょうか? 先日はありがとうございました! 大阪の地での、とても楽しい思い出になりました。 ところで、あの時色々あって、頭が混乱していたせいもあったのですが、千歳さんが海遊館でペンギンのヌイグルミをくれたのに、きちんとしたお礼が出来ていなかったなぁと思いまして。 そのお礼と遅くなってしまったお詫びに雑貨屋さんで見つけたトトロのヌイグルミを献上致します。 受け取っていただけたら嬉しいです。 また全国大会でお会い出来るのを楽しみにしております!心から応援しています。 夢野詩織── 夢野さんらしい文字に女の子らしかーと妙に感心してしまう。 いつも男が書く日誌や授業ノートば見せられているからだろうか。 なんだか新鮮だった。 「ばってん、律儀な子ばい。……ほんなこつ、目が離せんばい」 ポツリと漏らした台詞はいつも通り誰にも拾われない。 彼女が見ている世界、彼女の作り出す世界…… それらに強く興味惹かれて、彼女から目が離せなくなってしまった。 いつまでても見ていたい。 頭に浮かんだ願いに、ふっと口角が上がる。 「彼女から見た俺はどぎゃん男なんやろうか……」 ──『隣の森に住む不思議な妖精』 前にサバイバル合宿で、家族妄想を繰り広げていた夢野さんが俺に対して言った台詞が思い出されて、手の中にあるトトロに「……ぬしかー」と呟いてから今度は吹き出してしまったのだった。 夢野詩織と言う子は[ 22 / 64 ][ 戻る ] |