庭球連載番外編 | ナノ


「うあ!冷たいっ!!若くん、ほらっ」

「ばっ……!お前俺に近付いてくるな!」

ちょっとした悪戯で斜め後ろについていてくれた若くんに振り向きついでと、冷たい海水を手ですくってかけたら超嫌がられた。
眉間に皺を寄せながら、私から後ずさっていく若くんを追うのが楽しくて、にじにじと砂浜の上を進む。

「ほれほれよいではないかよいではな──」
「詩織ちゃん、俺も混ざるC〜!」
「──ぎゃふ……っ」

……それはきっと天罰なのだろう。
若くんがツンデレ可愛いからと調子に乗りすぎたのだ。

「あはは、びちょびちょだねぇ〜」

私の腰に手を回しながら、あっけらかんと楽しそうに笑うジロー先輩はかなりの強者である。

「……ったく、制服を濡らしやがって。風邪でも引いたらどうする。……おい、樺地、あいつらをここに背負ってこい。萩之介、ドライヤーだ」
「ウス」
「はいはいー」

それから跡部様の呆れた音色の的確な指示によって私とジロー先輩は、海から跡部様家(ベンツの)キャンピングカー付近まで連行され、滝先輩に全身をドライヤーされる羽目になった。



……何故、このような事態になっているかと聞かれれば、学校の廊下を歩いていたら前からやってきた岳人先輩と忍足先輩に連行され、気づけば氷帝学園テニス部レギュラー&準レギュラーである若くんとともにこの跡部様家のプライベートビーチにやってきていたと答えるしかあるまい。

なんというか、私はどうやらテニス部の人たちに恐れ多くも少しは気に入られているらしいのだ。もちろん、跡部様や滝先輩のようなキラキラした人たちに誘われるなんてとても光栄過ぎる。
この人たち女の子にキャーキャー言われている人たちですよ。

「……あーぁ、綺麗な髪やのにべとべとやん」

「きゃーきゃー」

「え、何。なんでそんな棒読みなんや」

いきなり後ろからそっと髪を触られてしまった。しかも忍足先輩だったので、ここは忍足先輩ファンの子を見習うべく少しはキャーキャー言わなきゃ失礼だと思ったので口に出してみたが、どうやら失敗したらしい。

「……いや、普通にして。いつもの詩織ちゃんで──」
「ギャー!滝先輩助けて下さい痴漢ですっ」
「──あかん、俺泣くわ」

本気で泣きそうなぐらい落ち込まれたので、とりあえず冗談ですと言えば「ほんまお茶目さんやなぁ」と笑われた。どうしよう。正直忍足先輩の扱い方心得術を体得し始めているような気がする。胸に罪悪感みたいなのが広がってちょっと悲しくなった。


「ったく、ダッセーな!波が来たらこう跳んでみそ?簡単だろー」

「……普通の人間はそんなピョンピョンしません」

波打ち際で戯れている岳人先輩を遠い目で見つめる。隣では既にジロー先輩が夢の世界へと旅立たれた。

それから浜辺で仲良く走り込みをしている宍戸先輩と鳳くんを視界に入れて、あの二人はどこいっても楽しそうでいいなぁと思う。

「夢野さんもどうかな?」

あまりにも二人を眺め過ぎたのか、私の視線に気付いた鳳くんが爽やかな笑顔でそう言ってくれた。だが、私には無理だ。鳳くんの後ろで額の汗を拭っている宍戸先輩が眩しすぎて、きっと二人の近くにいったら、つい宍戸先輩に悪戯してしまいそうである。
うん、最近宍戸先輩を困らせたりするのがマイブームです。

「……鳳、生乾きのコイツが走り込みなんてしたら、また浜辺で転んで今度は全身砂だらけになるに決まっているだろ」

悪いことは言わない、やめとけ。そう続けた若くんは鳳くんが納得するのを見てから、私に水の入ったペットボトルをくれた。……どうやら飲めということらしい。

「……私お茶がいい」

「…………飲め」

「……ウス」

ちょっとしたワガママを口にしたら、問答無用で頭をチョップされた。思わず樺地くんみたいに返事してしまう。跡部様の横にいた樺地くんが微妙に笑った気がする。跡部様も何やら悪そうな笑みを口元に浮かべて私を見ていた。

「やるねー。樺地にそっくりだったよー」

…………それって喜んでいいことなのだろうか。
何やらニヤニヤして私と若くんを眺めている滝先輩のセリフに一人首を傾げた。



まぁたまにはこんな放課後もありかもしれない。




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アライ様へ。
こんなものでも大丈夫でしたでしょうか?
私は楽しく書かせていただきましたが……かなりほのぼのになりましたね。


春の海に漂う

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