「あのねーあのねー!!聞いて欲しいCー!」 パッと目が覚めて、毎年の家族のおめでとうを貰いながら、俺は珍しくウキウキした気持ちで詩織ちゃん家に向かう。 爛々と輝いた目は全然眠気が来なくて、途中の公園のベンチで休憩しながら詩織ちゃんに電話をかけた。 『ど、どうしたんですか?おはようございます?め、珍しい……朝早い……』 通話中って画面の向こうから、詩織ちゃんの声が聞こえる。その声は全然眠そうじゃなくて、また朝早くからヴァイオリンの練習してたのかなって思って、やっぱり夢を追いかけてる詩織ちゃんすげーかっこEーってなった。 「あのねあのね!今日ね、こどもの日じゃん?!それでもってねっ!」 『こどもの日ですよね、って、あ。ジロー先輩、ごめんなさい、電波が……聞こえづらくて』 「Aー?!待って待って!これから、詩織ちゃんち行っていい?!」 『ん?あ、はい、わかりま……っーー』 プツンっと音が消えた。 通話終了の画面に呆然とする。 わかってもらえたのかな。 わかりましたって言ってくれたよね? 俺、遊びに行っていいんだよね? 怒られてもいいやって結論づけて、俺は駆け出した。 今日は俺の誕生日! だから、詩織ちゃんに会いに行って、おめでとうって言ってもらいたいCー! ハァハァと息切れする。 早く早くと焦った気持ちのせいで、なぜだかいつもより遠く感じた。 マンションの玄関ホールでインターホンを鳴らして『え?!は、早い!』とかぎょっとしたような声を出した詩織ちゃんにドキドキする。 でも、すんなりと入れてくれて、やったーって安心した。 エレベーターのボタンを無駄に同じところを何回も連打する。 「詩織ちゃーんっ!」 「はいっ、ハッピーバースデー!ジロー先輩!!」 パァンっと派手なクラッカーの音が玄関扉を開いたら俺に向かって放たれた。 「「ジロー、おめでとう!」ございます」 「え?」 キョトンとする。 詩織ちゃんちに、何故か跡部たちがいて。 氷帝レギュラー全員揃ってて。 「ジロー、どうしたの?びっくりした?」 滝に頬っぺをつつかれて、ハッと意識を戻した。 「マジマジ!めちゃくちゃびっくりしたCー!!何コレー?!サプライズ?!うっれCー!!」 テンションが更に上がる。 忍足がすごく苦笑してたけど、グリグリと頭を撫でられた。 「ジロー、お前の考えることなんて、お見通しなんだよ!」 「ウス」 いつもの偉そうな跡部にへへっとニヤついてしまう。樺ちゃんもありがとうっ! 「ジロー先輩!ケーキも焼いたんです!ご自宅でも食べられるかもですが……っ!もちろんプレゼントもありますよ!」 満面の笑みで俺にそう言ってくれた詩織ちゃんがやけに眩しい。部屋の中なのにおかしいなぁなんて考える。 「お昼は皆でちらし寿司でも作りませんか?宍戸さんと材料買ってきたんで!」 「柏餅もあるぜ!」 鳳と宍戸の言葉にさらに嬉しさが増した。 「クソクソ!俺らだって用意したよな!日吉っ」 「そうですね。部屋の飾り付けとか……まさかこんなに朝早くからだとは思いませんでしたけど」 がっくんと日吉もちゃんと覚えててくれたんだ。 確かに詩織ちゃんちが折り紙の飾り付けや風船でいっぱいになってる。 「へへっ、皆ありがと!!俺、すっげー幸せだCー!!」 靴を脱いで、リビングに向かう皆の中を抜けて、詩織ちゃんにギュッと抱き着いた。 「……それ、許すの今日だけやからな」 忍足がはぁっとため息ついていたけど、気にしない。 陽だまりみたいな匂いがして、なんだか眠くなってきたのだった。 5/5 芥川慈郎[ 26 / 64 ][ 戻る ] |