庭球連載番外編 | ナノ


「なぁ、壇。パンダ枠と双子枠ってどっちがあいつにとって大切だと思う?」

「え、えーっと」

目の前にいる壇は一瞬困ったような顔をしたけど、次の瞬間にはいつもの人懐っこい笑顔で「そのどちらにも入ってない僕からしたら、どっちも羨ましいです」と言ってくれた。

「そうか」

俺の泣きたいやら喚きたいやらの感情が顔に出てたのかもしれない。
可愛い後輩を困らせてしまうなんて悪かったと反省した。
短く頷いて壇から目線をそらす。
それから一度ため息をついてから、能天気な顔で笑うあいつを思い出した。

詩織の家族妄想とやらで、こんなにも自分がダメージを受けるだなんてわからなかった。
家族妄想が始まった時は、また詩織が馬鹿なことをいっていると思って笑ってた。
けど、日吉のことを双子とかいい始めた瞬間にすごく焦りはじめて。
財前がほとんど無理やり双子枠に必死になったのは俺と同じ気持ちだったんだろう。
それから例の不二裕太との会話を聞いた後だったからか、あいつの時はすごく警戒してた。
不二裕太まで双子だったらどうしようかと。けど、出てきた答えは従兄弟で。いや、二人のやり取りが妙な空気だったのはまた嫌だったわけだけども。
それでも俺は思ったんだ。
まだ不二裕太は日吉や財前より位置的に詩織の心の距離から少し離れているって。
問題は俺がやつらと同じ双子枠になれるかどうかだった。
次に伊武は予想通りだったけども、まさか双子枠に神尾までくるとは思わなかった。
だって神尾と詩織はよく口喧嘩してるというか、気は合わなさそうだと感じていたから。それに伊武からの情報だと、神尾には別にちゃんと好きな子がいるらしいし。……でも油断はできないから、今後神尾のことも注視しておこう、とは思う。

そして問題の俺である。
嫌な山吹の家族設定が妄想炸裂したところで、詩織がなかなか俺のことをいれてくれなかった。え、もしかして忘れられてる?とか別の焦りまで出てきて、思わず「……あ、あれ?俺は?」と自分から口に出してしまった。
情けない。そして恥ずかしい。
めっちゃくちゃ待機してたのバレる。やばい。財前と伊武の方を見られない。

「十次くんは……パンダかな」

そしてこれである。
それだけ言い残して去っていった詩織は可愛くなかった。
いや、可愛い。詩織はめちゃくちゃ可愛いし、俺のタイプの顔をしてるんだけど、その時は憎たらしいというか。
日吉や財前がやってるみたいにほっぺたつねっても文句言われないんじゃないかなって思うほどで。
だってなんだよ、パンダって!!

は?みたいな。
ふざけんなってなっても仕方がないだろ。
……でも俺には女の子を罵倒も攻撃もできないし、できて注意ぐらいだった。
あぁ、そうか。
この性格がダメなのかなって落ち込む。
同じパンダ枠でも芥川さんは物事けっこうはっきり言うよなぁとまたため息をついた。
いや俺だって言うときは言う。でもそれって対千石先輩らだったりする。
女の子というか、特に好意を抱く女の子には言えない。ましてや詩織になんて言えるわけなかった。



「……そういやぁ、姉から借りた少女漫画でさ、俺様系や意地悪な男にヒロインは惹かれるんだよな。で、ピンチのときとか結構な割合で助けたり悩み聞いたりしてる優しい人ポジションのやつって最終的に当て馬なだけでフラれるんだよ」

「へー。私なら優しく見守ってくれる人の方がいいなー」

「……じゃあ頑張る」

次の日、詩織と会話したら迷わず優しい人を選んだので気合いを入れた。
そしたら財前がやってくる。

「変質者が出てきた。頼るとしたら跡部さんと室──」
「跡部様っ」
「──町言う前に答えんなや」
「え、ごめん!」
「……、……」
「えっ?!十次くん、ごめんなさい!泣かないで!!」
「泣いてない……っ」
「詩織、自分最低やな」
「ち、ちがう!跡部様、俺様だけど優しいから!」

俺と比較対象に跡部さんを出した財前が悪い。絶対わざとだし、こんなのに負けてられないんだけど、跡部さんに対する詩織の絶対的信頼みたいなのを感じてやっぱり辛かった。

……どれだけ分が悪くても、足掻くだけ足掻いてみよう。君の隣で笑えるように。


少女漫画のセオリーで

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