「ふふ、おやすみ。夢野さん。……最後に、一言だけ言わせて」 口をパクパクさせて真っ赤な顔の夢野さんが愛らしくて、俺はこの時強く想った。 「……俺、誰にも負けないから」 負けない。 絶対にこの愛しさを手放さない。 はっきり彼女に告げてから、さっと管理小屋から出る。そして振り返らずに自分の小屋まで歩いた。 「……うわっ?!ゆ、幸村くん、どうし──」 小屋の前にちょうど扉を開けようとしている丸井を見付けたが、今の自分の顔の熱を悟られたくなくて押し退けるようにして先に扉の中に滑り込む。 それからすぐさま自身のベッドに潜り込んだ。 俺のそんな様子をみんな不思議そうだったが、蓮二が悟ったように気をきかせてくれる。 あぁ、やっぱり蓮二には敵わないなと布団のなかで苦笑した。 「……はぁ」 みんなの気配がなくなってから、掛け布団から顔を出す。 顔中の熱はまだ引いてない。 夢野さんの甘い香りがまだする気がする。 ドキドキバクバクとうるさいぐらいの胸の鼓動にぎゅっと胸元を掴むように布団を握った。 ……もうきっと彼女は自分に向けられている好意を自覚しているだろうか。 「もし……明日から避けられたら……どうしよう……か」 想像しただけで泣きたくなる。 切ない、辛い。 夢野さんの様子を見る限り、ぐいぐい押したらダメなんだ。 それはわかってるのに。 日吉若、という存在が俺の中の焦燥感をかきたてる。 それから財前光。 それと伊武深司、室町十次、あとは……不二裕太と忍足侑士に跡部。越前…… 日に日に増えてくる不安要素にひどく胸がざわめく。 今日は日吉に負けた。 あの一瞬で。 「……君を二度と失いたくない」 だから、もう敗北なんてしない。 こんなにも切ない[ 13 / 64 ][ 戻る ] |