庭球連載番外編 | ナノ


「ちっ、どこいった……」

木の板を睨みながら、目からポロリと落ちたコンタクトレンズの片方を探す。
あぁ、もう最悪だ。
海難事故からの遭難のおかげで、スペアもないし、洗浄保存液も合宿の日数分と少しぐらいしか持ってない。
もちろん家で使っている眼鏡も持ってきていない。
まぁまだ洗浄保存液などを持ち出せただけましだが。

「……若くん?」

小屋の床と睨みあっている俺を不思議そうに戸の前で夢野が見ていた。

「あ、私は宍戸先輩のタオルを取ってきて欲しいと頼まれだけなのだよ」

聞いてもないのにそう喋った夢野の足元に俺のコンタクトレンズが落ちていることに気づく。

「夢野、お前そこから一歩も動くなよ」

「へ?」

「コントクトが落ちたんだ!」

キョトンとした夢野を放置して、腕を伸ばす。
無事だったそれを拾い上げてから、小さく安堵の息をついた。

「……わ、若くんは目が悪かったでございまするか?」

「は?お前は何をいっているんだ」

「え、だからコンタクトレンズだったの?と」

「ふん、そうだ。で、それがどうした」

コンタクトレンズだったから、お前の隣になったんだろ。文句でもあるのかと眉間にシワを寄せる。俺がコンタクトレンズをつけているからと、こいつに迷惑をかけた覚えはない。……いや今動くなとは言ったが。

「……眼鏡は」

「眼鏡は家にいるときだけだ」

そうきっぱりと答えると、夢野は何故か異様に目をキラキラと光らせて俺を見てきた。

「うわぁ、うわぁ、若くんの眼鏡姿みたい!無事に救出されたら、学校に眼鏡を持ってきてもらおう!若くん、きっと似合うと思う。あぁ、そんなこと言ったら若くん怒るかな。あーでも見たい!絶対知的な感じで大人っぽくなる!」

「お前は……」

早口でまた考えてることを口に出した夢野に知らぬ間に顔が熱くなった。
似合うとか知的な感じで大人っぽくとか、よくも恥ずかしいことを平気で口に出す。いや、本人は出しているつもりはないんだろうが。

「はぁ……。わかった、無事にここから帰ったら、い、家に遊びにでも来ればいいだろ」

「え!若くんの家に遊びにいっていいの?!すごい、それは貴重な体験だ!行く!」

悩まないのか。即答か。
何故かこいつは俺に対して警戒心というものというか、男としても何も感じてないんじゃないかと心配になる。
例えばさっきの台詞を忍足さんや白石さんが言ったとしたら、きっとこいつの反応は遠慮します系だろう。
……いやでも、跡部さんが言ったとしたら、行きます!っていう気がする。だが跡部さんの場合は樺地もいるわけだし。

「……及川や篠山は連れてくるなよ?」

「え!」

「鳳も却下」

「えっ!」

「……お前にだけなら見せてやってもいい」

「ひ、一人で行く!」


鼻息荒くそう頷いた夢野は、やっと宍戸さんのタオルを持って小屋から出ていった。

少しは男だと意識はされているのかもしれない。
それから、小さく握り拳にぎゅっと力を込めた。

コンタクトレンズ越しの

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