庭球連載番外編 | ナノ


今日の夕食担当は岳人先輩と忍足先輩とジロー先輩と謙也さんと光くんだった。
もはや寝ているジロー先輩は戦力外もいいところで、さっきから散らかしては失敗している岳人先輩もとりもちの床に立たせたいほどだ。何故料理しながらアクロバティックに跳ねるのか。光くんの眉間のシワがやばかった。

そんな中、比較的落ち着いて味噌汁を作っていた謙也さんに声をかけたら、何故か驚かれて味噌汁が大惨事になった。
そして光くんに怒られている謙也さんも大惨事なので、まともに料理を作っているのは忍足先輩だけになってしまった。
謙也さんに関しては後ろから声をかけた私の責任もあるので、忍足先輩を手伝うことにする。

「な、なんですと?!」

そしたらひっくり返るほど驚いてしまった。
魚を三枚に下ろしている忍足先輩の手つきが尋常じゃないほどうまかったからだ。
プロですか?と聞きたいぐらいお料理上手なのである。

「どないしたん?あ、いい婿になりそうやおもた?そうやねん、超優良物件やで」

「いや、むしろ奥さんになられるかたのレベルが上がって花嫁修行とか大変そうだなと。めんどくさそうですよね色々」

「いやいやなんもせぇへんでも俺が全部したるさかい」

「え、そうなんですか!奥さん、太っちゃいそうですよね!」

「それはアカン」

そういう体調管理や運動管理もちゃんとするで。と真顔で続けられて、やっぱりめんどうですよね、色々めんどうですよね、大事なことなので二回言いました。という視線を向けたら「案の定声でとるからな!」とつっこまれた。

とりあえずそのあとは黙々と作業を続ける。光くんと謙也さんが味噌汁をまた作ったり、お皿を用意し始めていた。

「……でな、俺の好きな食べ物、サゴシキズシとかす汁やねん」

「かす汁はわかりますが、さ、さごしきじゅしってなんですか?」

「噛んだん可愛かったからもう一回言うて?」

「忍足先輩気持ち悪い」

「ぷっ」

岳人先輩が吹き出した。
とりあえず岳人先輩に全員用のプラスチックのコップを準備しといてくださいと告げる。

「サゴシキズシはな、そっちでいうシメサバみたいなもんや」

「なるほど」

謙也さんがこっそり教えてくれた。さごしきずし、と頭の中でちゃんと言ってみる。やっぱり若干怪しかったので口に出すのは控えた。

「まぁこっちでもマイナーな料理っすわ。つか、なんで魚なん。俺、魚の苦いところ嫌いやねんけど」

「え、そうなんだ!」

光くんの不服そうな顔を見て、光くんと結婚する人も大変そうだなと考える。
そんなことを考えたせいか、忍足先輩から焼き魚を受け取って各人のお皿に並べていっているときに、ついうっかりいつもみたいに考え事を口に出していた。

「やっぱり結婚するなら優しい人がいいですね」

「え、俺との結婚考えてくれたん?」

「大変です、忍足先輩、耳にうじが湧いてます」

「湧いてへんわ。……はぁー、こんなに尽くす男はおらへんと思うで?」

それからチラチラと私のようすを窺ってくる感じが異様に小そば痒くて。

「尽くすと言われても、よくわかんな──」

気付いたら忍足先輩にお姫様抱っこをされていた。
それから私の席まで私を運んで座らせてくれる。私の席にはもうすでに夕食がすべて用意されていて、忍足先輩は私の髪を一束掬い上げてそこに口づけを落とされた。

「どんなわがままでも聞いたるで?俺のお姫さん」

「……っ、ぜ」

耳元で囁かれたのは低音の甘い声。

「全財産奪われるっ!!」

涙目でそう叫んだら跡部様が忍足先輩の頭に拳骨を落として、私の大声に起きたジロー先輩が私の頭を撫でてくれた。

あぁあ、ホストクラブに通ったことないのに通ってしまう人の気持ちが理解できてしまいそうになった。恐ろしい。忍足先輩おそろしやおそろしや。


……少しドキドキしたなんて、忍足先輩には絶対言えないなと思ったそんな夜。

もはや年齢詐称疑惑

[ 8 / 64 ]
[ 戻る ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -