庭球連載番外編 | ナノ


「謙也さん、こんにちは」

「ど、えっ?!ど、どないしたん?!」

ここ大阪やで?!
と叫んだ謙也さんを無視して逃げようと思った。
挨拶は済ませたし、逃げても許されると思った。
だって人の目が恥ずかしかったし、謙也さんは思考回路が停止寸前の混乱状態に陥っていたからである。
だがしかし、謙也さんの体は反応したらしい。
逃げようと、愛想笑いを浮かべつつ脇を通り抜けようとした私の腕をがっしりとハントしてしまった。
く、これがスポーツマンの反射神経か!

「どないして大阪に?」

「いやあの、えっと、流夏ちゃんが、大会で」

「あぁ、あのボーイッシュな?」

「はい、そのボーイッシュな」

氷帝のみんなにすら内緒にしてやってきた大阪。
流夏ちゃんの大会は明日なのだが、一日は大阪観光しようと思ってうろうろしていたわけである。
流夏ちゃんは大切な大会なので、前日に迷惑かけるわけにもいかず、ちゃんと体の調節をしてもらおうと、観光は1人で回ろうと思ったわけだ。
が、まさかそこで謙也さんに会おうとは。
光くんにも内緒なので、来てることばれたら怒られそうだ。

「……それで大会は明日なので今日は観光を、と」

馬鹿正直に答えると、謙也さんは突然辺りをキョロキョロし始めた。
な、なんだろう。誰かを探しているみたいだけど。

「あ、あの、お連れの方が?」

「い、いや、財前がおるかと思って」

「え?光くんと一緒だったんですか?」

「え、いや、夢野さんが」

「……?私は一人ですが」

「え?!」
「え?!」

二人して顔を見合わせて首をかしげる。
あ、あれか。
謙也さん的には、1人で観光してるなんてあり得ないって感じだろうか。寂しいやつって思われたのだろうか。そのための驚愕か。うぅ、その通り、寂しいやつですよ!

「そ、そないなこと、思ってへん!むしろラッキーちゅーか、あっ?!いや、違うで?!」

何が違うんだろうか。
慌てる謙也さんを見つめつつ、もう一度首をかしげる。
その瞬間に謙也さんは顔がさらに赤くなった。
……相変わらず思春期さんなんだろうか。謙也さん、モテそうなのに。

「か、可愛……いやあの、観光案内させてくれへん?」

ここまでずっとがっちり掴まれた腕をちらりと見てから、キラキラした顔で私を見る謙也さんを断れる勇気は私にはない。
むしろ、案内してもらえるならば嬉しい。
何分慣れない土地である。

それに、実は1人で寂しくなっていたところだ。

「謙也さんに案内していただけるなんて、嬉しいです」

「え?!」
「え?」

そんな奇異な目で見られるようなことを言っただろうか。正直にお礼をのべたつもりである。


「とりあえず、謙也さん!さっきあそこのゲームセンターにパンダの可愛いぬいぐるみが!」

「え、あれ?観光?」





―――――――――
豆吉様へ
大変お待たせいたしました。
リハビリを兼ねさせていただいており申し訳ありません。
このあと、白石や財前に見つかるのも時間の問題。リクエストありがとうございました!


ある日都会という森の中で謙也さんに出会った

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