庭球連載番外編 | ナノ


────もう、あの夏は帰ってこないんだなと思った。

「泣かせたら駄目だC〜!」
「泣かせるつもりはありませんよ」

そうきっぱりといい放った日吉に、うんうんと何度も頷く。
泣きたくないのに涙が出そうになって、必死に我慢した。

無言で肩を叩いてくれた滝に振り返らず、俺はずびっと鼻水をすする。
跡部も忍足も俺よりだいぶ大人で、あんなに執着していたのに、もう二人を祝福したりしてる。
……違う。
本当は俺と同じで悔しいんだと思う。
でも、いくら駄々をこねても、何をしても、彼女の気持ちが変わらないなら。
詩織ちゃんの気持ちが自分をみないなら。

ただ、彼女の幸せを祈るだけなんだ。

悔しくて悔しくて、泣きたくてたまらないけど。
それぐらい好きだったから。

「……も、もし、泣かせたりしたら、絶対奪うから!覚悟しとくC〜!!」

そう叫んだら、鳳も大きく頷いた。
宍戸の目も、がっくんの目も、真剣で。

「……油断はしません」

涼しい顔でそうきっぱりいい放った日吉に、すごく悔しいのと同時に、彼女が選んだ相手は正解なんだろうなって思った。





────距離さえなかったら、と考えんのは、逃げかもしれへん。


≪Eve:正直、俺は諦めきれてないよ。……そんな簡単な想いじゃなかったから≫

≪eleven:……俺も、あいつのいつもの冗談だったらどんなに良かったか≫

≪善哉:……俺は絶対諦めへん≫

「諦めるわけないやろ」

俺の発言から無言になったチャットルームの画面を眺めながら、何度目かの舌打ちをした。

俺があんたらと同じように関東やったら。
自転車飛ばして会いにいける距離にすんどったら。

俺は今すぐにでも、詩織に会いに行くのに。
そして、日吉のアホからさらってやるのに。

≪Eve:……ふぅん。じゃあ俺も諦めない≫

≪eleven:え……、あ、それが許されるなら、俺も……まだチャンスはあるって信じたいけど、≫

≪善哉:ようアイツが言っとったことやんけ。……下剋上、やろ?≫

そうや。
覚悟しとけや。

そう易々とこのまま受け入れてたまるかボケ。





―――――――――
りん様へ
代表的な感じで、吐露したのは、ジロー先輩と光くんでした!
リクエスト、ありがとうございました!


もしも一縷の望みがあるならば

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