「……あぁ、えぇなぁ。手作り愛妻弁当。男の夢やで」 部室内にお邪魔している私にチラチラっとわざとらしく視線を向けてくる忍足先輩がとてもアレだったので「結婚おめでとうございます」って言ったら「なんでやねん!」っと盛大につっこまれた。 どうやら対応はこれで大正解だったようだ。 「ちゃうで?!正解にも引っかかってないで?!愛妻つぅのは、言い過ぎやった。せやけど、可愛い彼女が手作り弁当持ってきてくれたら幸せやん」 無言で岳人先輩に「ユー?」って口パクしたら、迷惑そうな顔で「アホか。ノー」と口パクされたわけである。 「……わかりました。日頃の恩返しに手作り弁当を献上いたします!」 「わ、わかってくれたんか!」 「はい!……まずは樺地くんに!」 「ウス」 宣言したら忍足先輩はひっくり返っていた。さすがです、なんて素晴らしいボケ方……! 樺地くんはぽりぽりと指で頬をかいていて、とても可愛かったのだった。 次の日、お昼に樺地くんと屋上に向かう。 ちーちゃんとタマちゃんは何故か食堂に行ってしまった。本当に何故だ。 「……お口に合わないかもしれませぬが」 ははーっと武士みたいに仰々しくしたら、樺地くんが困ってしまったので反省する。 「……美味しい、です」 「!…樺地くんに言われると自信になる!」 温かいポカポカの日差しに目を細めながら、自信作のだし巻き卵を食べてくれた樺地くんに両手をあげて喜んだ。 やはり一人暮らしで料理していたら上達するんだなぁ。嬉しい。 「……夢野さん」 「ん?」 樺地くんが私の名前を呼んだので首を傾げた。 「……ありがとう、ございます」 「うわぁぁあ!こっちがいつもありがとう、だよ?!」 優しい優しい樺地くん。 本当にいつもありがとう。 それから── 「……忍足先輩たちも」 屋上の扉向こうに固まっていた人たちに笑いかける。 そこには若くんや跡部様の姿まであって、気持ちがポカポカ日差しと一緒だった。 「ふふ、ちゃんと皆さんの分もあるんですよ?」 そう言ったら、忍足先輩が眼鏡の奥で瞳をうるうるさせていた。 抱きついてきたジロー先輩の頭を撫でながら、笑う。 皆さんがいてくださって、本当に私は幸せです。そう言おうとした言葉は恥ずかしくなったので飲み込んで。 ひとまずは、気持ちを曲に乗せよう。 大切に、伝えるように。 ――――――――― ゆず様へ。 誰でもいいとのことでしたので、氷帝で! うまくご要望にお答えできたでしょうか。 リクエスト、ありがとうございました! 不思議少女の恩返し[ 61 / 64 ][ 戻る ] |