「夢野さん、飴ちゃんいる?」 「謙也、うちの詩織ちゃんにちょっかい出すんやめてくれへん?」 「ばっ!べ、べべ別にちょっかいなんて……ちゅーか、人聞き悪いこと言うなや!どアホ!!」 謙也さんの怒鳴り声についに私は両手で顔を覆った。 電車の狭い車内で一際注目を浴びている気がして、もう私は絶望である。 そもそも、せっかくの流夏ちゃんとの休日デートだというのに、神奈川に向かう道中にてこの二人と遭遇してしまったことが大きな間違いだ。 何故だ。 一体私の何が悪かったというのだろうか。 どうして謙也さんは東京にいるんだ。 そして何故忍足先輩は従兄弟の謙也さんを神奈川案内する予定だったんだろうか。 というか、よりにもよって何故今日なのだ! 「おぉ、神よ……っ!」 「あかん、詩織ちゃんが羞恥心に耐えられんようになって、脳内神と会話初めてもうたで」 「羞恥心ってなんでやねん!」 「……わからんやつやな。自分がアホみたいに大声あげる度に詩織ちゃんがおかしなってたんわからんかったんかいな」 「お、俺のせいなん?!」 「強いていうならどっちもです!」 かっと目を見開いて顔を上げて後悔した。 いかん。 二人がつっこまなければいけないような会話を私を挟んでするから……!いやそれよりも私の独り言が絶賛稼動中なのがやばい。 もう完全に色物を見るような視線を感じまくる。 「……詩織ちゃん、自意識過剰やで。大丈夫や。誰も俺らなんか気にしてないって」 そう言って長いスラッとした足を組み替えた忍足先輩の背後で「きゃー!」と黄色い声が上がった。凝視すれば女子大学生っぽい人たちが忍足先輩と謙也先輩を頬を赤らめてチラチラ見ているようだった。 「そうやで!夢野さんは気にしすぎや!どーんと構えとったらえぇねん。な?」 バシバシと背中を叩かれた。 謙也さんはニコニコしているが、そもそも私を限界に導いた主な原因はこの人である。 二分ごとに「なぁなぁ今日えぇ天気やな」とか「そうや、金ちゃんがな……」とか、一生懸命に話し掛けてくださった謙也さんはいい人だと思うが、彼はやたら大声なのだ。 「……謙也。真っ赤な顔して声裏返ってんねん。聞いてるこっちが恥ずかしいわ」 「だ、誰が顔真っ赤やねん!」 「自分や自分」 「そんなわけ──」 「十分間、せめて十分間!黙ってください!なんでも言うこと聞きますから!」 ついに我慢できなくなってそう大声で叫んだら、途端にシーンとした。 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………っ、なんでやねん!」 まだ降りる駅ではなかったが、私の言葉に押し黙った二人と、さらには乗車している他の方々が見守るようにシーンとしてしまったことに耐えきれなくなって、私はドアが開いたと同時にホームにダッシュした。 そして勢いよく転けて、追いかけてきたらしい忍足先輩と謙也さんに無言で抱き起こされた。 「……ありがとうございます。本当に十分間続けるつもりですか。さっきの取り消します。喋ってくださいもう本当にお願いします」 「……パンツ、しましまやったな」 「言わんでえぇ!!」 「うわぁやっぱ喋らないでください。一生口が開かない呪いにかかればいいのにっ畜生っ」 早く流夏ちゃんに会いたくてたまらなくなった。 ――――――――― りろ様へ。 ギャグということで。 リクエストにて忍足くんと書いてあったのですが、侑士かなとは思いつつ、両方出してみました。そしてよくわからない話になりました。 リクエスト、ありがとうございました! 忍足先輩×2[ 58 / 64 ][ 戻る ] |