庭球連載番外編 | ナノ


「水族館だ、水族館♪」

奇妙な即席歌を口ずさんでいる夢野さんを横目で見ながら、隣を歩く日吉に「今日も暑いね」と呟いた。
「あぁ」とだけ短く答えた日吉は、スキップまでし始めた夢野さんに深い溜め息を吐き出す。

「……夢野、お前いい加減にしろ。小学生か」
「うわぁん、中学生のお兄ちゃんたちがイジメるよう」
「死ね」

ゴツンと鈍い音がしたと同時に、夢野さんがその場にうずくまった。
痛い酷いと呻いている夢野さんを見るのは、この日で何回目だろう。

「うぅ、いつも助けてくれる鳳くんが助けてくれない……しくしく」

「あ、いや……お兄ちゃんたちにいじめられてるって言っていたから、かな?」

「?!」

わざと泣き真似をしている夢野さんに苦笑したら、すごく驚いた顔で俺の顔をマジマジと見つめていた。

「……若くん、若くん。私の気のせいじゃなければ、鳳くんってたまにドSな属性が漏れるよね?」

「アホか」

日吉は俺と夢野さんのやり取りに呆れたような顔をした後「いい加減入るぞ」と水族館の受付カウンターに向かう。

俺も黙ってついて行って、その後ろから夢野さんがパタパタと足音を鳴らしながらついてきていた。



この水族館に遊びに行こうと誘ったのは俺で。
本当はここに宍戸さんも来る予定だったけれど。用事ができて宍戸さんが無理になったのだ。
楽しみにしていてくれた夢野さんの為に予定はそのまま実行したわけだけど。

……正直、俺って邪魔者なんじゃないかなって考えていた。

少なからず日吉が特別な目で夢野さんを見ていることには気づいていたし。
それに夢野さんだって、俺より遥かに日吉に懐いているし……

呼び方だってそうだ。
俺はずっと『鳳くん』のままで。


「鳳くん、鳳くん!見てみて、あれ、すごいジロー先輩っぽい!」

「え、あ……本当だ。まったく動かないし……」

「それでもって、あのピョンピョンしてる海老って岳人先輩で。あそこのマンタなんか、すごい忍足先輩っぽい」

「あ、じゃああれが樺地で。あのサメって跡部さんかも」

「ぷふぅっ」
「あはは!」

最終的に二人して腹抱えて笑っていた。
「あれ日吉は?」って聞くと、夢野さんは「トイレだって」と返した後、キノコみたいな珊瑚を見つけて「やだ、若くんったらあんなところに」と続けてきたからまた笑ってしまう。
その後すぐにトイレから戻ってきたらしい日吉にまた拳骨を落とされていた。

「……ふん、お前なんてカクレクマノミだろ。目立つくせに小心者。あの忙しない動きもピッタリだ」

「……良かったね。夢野さん、日吉には守ってあげたいくらい可愛い姿に映ってるみたいだよ」

「なっ?!おい、鳳!なんだそのわけのわからない訳し方は!」

「わぁ、若くんのツンデレ〜」
「だね」

「お前ら……っ!」

真っ赤になって追いかけてくる日吉を避けながら、夢野さんと一緒になって逃げた。

ただすごく楽しくて。

周囲からどういう風にみられてるんだろうかとは思いつつも、今はただこの三人で来れたことを良かったと喜ぶ。


……もう少し

もう少しだけ、自分の気持ちに気づかないふりをし続けたままでいよう。

どんなに一つの角だけが離れた二等辺三角形だったとしても、壊れるまでは三角形なんだから。



―――――――――
雪兎様へ。
鳳くん視点でいってみました。
少しでもときめきがありますようにー。
リクエスト、ありがとうございました!


この三角形は

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