庭球連載番外編 | ナノ


「なぁなぁ跡部。コイツの私服どう思う?」

「……アーン?別に似合ってんじゃねぇの?」

「でもいつも似たような感じじゃね?たまにパンダ柄とか目を疑うし」

「岳人先輩は私とパンダに喧嘩を売っているんだろうか」

榊監督から私の代わりに詩織のことを見ていてくれと頼まれたのは、今朝早くのことだ。
夢野は気付いちゃいないが、ヤツの住んでいるマンションには廊下などに監視カメラが何台もあり、それらが夢野の帰宅や訪問者の情報を瞬時に榊監督へと送っている。また、ヤツの携帯電話はもちろん、榊監督がプレゼントしたらしい髪留めなどにGPS機能が備えられていたりするのだ。

そんな中、榊監督は大事な会議などが立て続けにあるらしく、夢野を監視……いや、見守ることが出来ないからと、俺様にヤツのお守りを頼んできたわけである。

「……うーん、確かに夢野さんの服装って白っぽいものか黒っぽいものばかりだねー」

紅茶を飲んでいた萩之介が口を開けば、向日がだろ?!と何度も首を縦に振っていた。

夢野のお守りついでに、部員との交流を深めてやろうと屋敷に氷帝テニス部員を集めたが、やはりレギュラーのヤツらは固まって過ごしている。
夢野も夢野で、相変わらず人見知りが激しく、平部員に話しかけられても気持ち悪い動きと独り言だらけだ。いや、まぁアイツはアイツなりに一生懸命なんだろうが。

「こう、花柄とか持ってないんかいな」

「榊おじさんがくれたフリフリロリータ服の中に一着そんな服が……」

「わぁ俺みたいCー!」

「別にいいんだけどよ。ロリータ服なら合宿で見たからなぁ……こう、もうちょっとイメチェンしてみそ?」

「岳人先輩がそのパッツン髪イメチェンしたら考えてみます」

「クソクソ詩織っ、お前喧嘩売ってんのかよ」

「岳人先輩にだけは言われたくない!」

「……なんやかんや言うても、岳人と詩織ちゃん、自分ら仲えぇなぁ……」
「……ウス」
「激ダサ」

ぎゃあぎゃあと騒がしくなった二人を眺めながら、軽くため息をついた。
ふと宍戸の横に立っていた鳳が考え込んでいる様子だったので、どうしたと声をかけてみる。

「……いえ、夢野さんってたまに普段よりも大人っぽく見えることがありますよね?喋るとやっぱりいつもの夢野さんなんですけど」

「鳳、それは遠回しにあの馬鹿が口を開いたら残念だと言っているのか……?」

「ひ、日吉っ、俺は別にそんなこと……!」

無表情で夢野にダメージを与えた日吉に鳳が必死に弁明するが、足掻けば足掻くほど夢野のダメージが加算されていくだけだった。


「…………」

やがて遠い目をして寝ているジローの頭を撫でて精神を保たせている夢野が出来上がった。……めんどくさい奴らだな。

「……おい、拗ねんな」

「うぅ、跡部様にはこの乙女心はわかりませぬよっ」

どうせ子供っぽいだとか、中学生なのに小学生に間違えられるとか愚痴り始めた夢野に頭をかく。

「そうだ!夢野さん、また俺がメイクしてあげようか?」

「でも前に滝さん自身が、私は童顔だからナチュラルメイクぐらいしか似合わぬと」

「あ、跡部、紅茶おかわりしていい?」

都合が悪くなったらしい萩之介は夢野の台詞を聞き流して、ポットを持ち立ち上がった。
夢野は人のクッションを抱き締めて、絨毯の上に遂にふて寝し始める。

「……ったく、しょうがねぇな。おい、夢野。俺様に付いて来い」
「……うー」
「樺地。運べ」
「ウス」

動かない夢野にいらっとしつつ、樺地に運ばせることにした。
忍足が「どうするん?」と声をかけてきたので、「まぁみてな」とだけ返す。

……フン、俺様に不可能はない。




「……あ、跡部様、こんな高そうな服や靴、アクセサリーとか、わわわ私に付けたら腐りますよっ?!」

「うるせぇやつだな。少しぐらい黙れねぇのか、アーン?」

とりあえず、シックな雰囲気のものを組み合わせ、社交界に出ても恥ずかしくない格好を着せることには成功した。だが、まだヤツの大袈裟な言動などで服に着られている感しかしない。

「やっぱ詩織にお姉系の服装は合わないんじゃねー?」と声をあげる向日に腕を上げて指を鳴らしてやった。
そのまま、振り下ろした手で夢野を指差す。

「夢野、今ここで何か演奏してみろ。できるだろ、アーン?」
「は、はははい?!」

大勢のヤツらからの興味津々といった視線にオロオロしながら、夢野はヴァイオリンを持つと人が変わったように背筋を伸ばした。

奏でられる音楽と同じように清楚で繊細そうな女の姿がそこにできる。

「……フン、俺様にかかればこんなもんだ」

夢野に見とれているのか、その場にいる誰一人俺様の台詞を聞いちゃいねぇようだったが、何故かその時は怒りなどわかなかった。



「……よくやった」

「あああ、跡部さぅわっ?!」

演奏を終えた夢野は一気に緊張が解けたのと、履き慣れないハイヒールのせいもあり、盛大に体勢を崩した。

「って、あれ?痛くない……?」

「そりゃあそうだろ。俺様が助けてやったんだからな。感謝しろよ、夢野」

「ひぃいっ、跡部様、ごめんなさいーっ」

何故か涙目になり始めた夢野に、掴んでいた手首と支えていた腰から手を離す。

フン、たかが楽士の分際でキングの俺様の手を煩わせるとはいい度胸だ。

これからは手加減してやらねぇからな。
覚悟しろよ、夢野詩織。



―――――――――
菜乃夏様へ。
ギャグ甘で最終的に跡部に甘えるお話とのことで、こんな感じに仕上がりました←
……跡部に甘える……どうみても怯えてる気がしますが。お許しくださいませ。
リクエスト、ありがとうございました!


王様と楽士

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