庭球連載番外編 | ナノ


「……夢野さん、そんなところで何しているんだい?」

背中にかけられた柔らかい物腰の声に振り返ったら、予想通り幸村さんだった。
彼の後ろには真田さんを始めとした立海大の皆さんがいらっしゃる。

「……小腹が空きまして」

お恥ずかしながら、と付け加えてお腹を押さえたら、幸村さんがクスクス笑われた。
真田さんは「たるんどるっ」と何故か鼻息荒くされて、丸井さんに「ダッセェ」とか言われたので「……丸井さんのお腹ほどたるんどりはしません」と答えておく。

また幸村さんが声を上げて笑い、仁王さんと切原くんも「ぷっ」と吹き出していた。
そして案の定、カチンときたらしい丸井さんが騒ぎ初めて、真田さんにげんこつを落とされる。

「……ふ、ここまで私の計算です」

「そうか。なかなかやるじゃないか」

柳さんだ。
ノートにさらさらと文字を走らせて、柳さんが私の座っていたベンチに腰を下ろしてきたではないか。なんて恐ろしい人なんだ。

「……夢野さん、こちらでよければどうぞ」

今まで遠巻きに苦笑しているだけだった柳生さんが私に美味しそうなシュークリームがたくさん詰まった箱を差し出してくれた。あまりのそれにたらりと口の端から涎が出る。

「おいおい、夢野。どんだけ腹空いてんだ」

ジャッカルさんが爽やかに笑いながら私にハンカチを差し出してくれた。
ジャッカルさんのハンカチは彼に似合わずジャスミンのような香りがする。……決して馬鹿にしているわけではないので、ついニヤっと口元が緩んでしまったのは許して欲しい。

「ひかひ、どほしてこれを」

「何言ってんのか、わかんねぇよ。ほら、茶」

切原くんがため息混じりに差し出してくれた水筒に口を付ける。ひんやりとしてとても美味しかった。
だけど、差し出してくれたはずの切原くんが真っ赤な顔で「ちょ、おま……せめて、水筒に口付けないように飲むだろ、普通っ」とかブツブツ言っていて首を傾げる羽目になった。
……そんなに嫌なら何故差し出してくれたのだろうか。切原くんはたまに優しいのか意地悪なのかよくわからない。……天然なのかな。

「……ふふ、夢野さん。俺もリンゴなら持ってるんだけど、食べるかい?」

何故パックでリンゴ(しかも器用にうさちゃんリンゴである)を持ち歩いているんだろうか。
幸村さんのミステリーだ。

「……いや、俺は先刻小腹が空いたと言っていたはずの、お前の腹の許容量の方がミステリーだが」

もちろん、そんな柳さんのセリフは無視した。彼は乙女には優しくない台詞を吐くと思う。

「む、しかし夢野。お前はこの公園で何していたんだ。そんなジャージ姿で」

「……運動してました。ダイエットのために」

リンゴをしゃこしゃこ頬張りながら真田さんの疑問に答えたら、皆さんの顔が若干ひきつっていた。

「お前、それ意味ねぇだろぃ」
「プリっ」

復活した丸井さんにチョップされた。
柳生さんの後ろでニヤニヤいやらしい笑みを浮かべていた仁王さんにはいらっとしたが、その後真田さんに説教されながら公園をランニングさせられる羽目になったので、どうでもよくなる。


……次の日、私は筋肉痛になったのだった。



―――――――――
桜柚樹様へ。
立海でほのぼのギャグとのことで……。いかがでしたでしょうか?
また、今回カウンターの誤作動で1000000番を踏まれた方がお二人になっております。
改めてありがとうございました!


食べて走ったら横腹痛い

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