庭球連載番外編 | ナノ


──その日、ソイツを見つけたのは本当に偶然。……否、今思えば必然だったのかもしれない。

ただ、その時は何気なくの流れの一つだった。


《レキシーデータ知ってる人いませんか?》

偶々見つけたチャットルーム名に目が止まる。
そもそもレキシーデータは俺が生まれるよりも前に発売された、クイズを解いていくタイプの玩具だ。
だから十代専用ルームでなかなか目にできない名前だったのと、そんなレキシーデータを所持し今でもたまに遊ぶ俺としては見過ごせなかった。
迷わずその閑散としたチャットルームに入る。入室の際、一瞬名前を何にするか迷ったが、適当にEveと入力した。

《──Eveさんが入室しました!》

《パンダ:あ!どうも初めまして》

《Eve:どうも。……レキシーデータ知ってるんだ?》

《パンダ:はい!同じ階の505号室にいるおばさんが暇だろうからって譲ってくれたんですよー》

今思えば同じ階に入院しているおばさんがくれたってことだったんだろうけど、その時はパンダが奇跡の少女夢野詩織だということも知らなかったし、もちろん病院に入院しているヤツなんて想像もしてなかったから、マンションに住んでるヤツなのかと勝手に納得していた。

《Eve:……それでどの問題でつまってるわけ》

《パンダ:何も言っていないのに、Eveさんは超能力者?!》

《Eve:馬鹿じゃないの。……普通に考えたらわかるだろ》

「……変なヤツに絡んじゃったかなぁ……あーぁ」

ぼそぼそとパソコンの画面に向かってボヤいてから、《まぁあれは自分で解いてこそ嬉しいものだからね。頑張れ》と打ち込んだ。

《パンダ:うーむ。頑張りまする!ところで、まだお時間あるなら他の話もしませんか?》

《Eve:いいけど》

それから年齢や部活の話になって、妙なテンションのパンダを気に入った。
……音楽の価値観は全然違ったけれど、それでも音楽の話では異様に盛り上がったし。
テニス部の苦節も、顔を見合わせないネットだからか難しいことを考えずに吐き出せた。
人間関係の面倒さに対して、やけにしんみりと共感してくれていたパンダは、やはり同じような経験をしていたんだろう。



《Eve:また今度話してあげてもいいけど……どう?》
《パンダ:明日も同じぐらいに話せませんか?》

退室前、ほとんど同時に画面に反映された二人の文面には吹いた。
それからお互いが楽しい時間を過ごしたつもりだったことに、少し胸が温かくなったのもはっきりと覚えている。

こうして、俺とパンダのチャットでの付き合いが始まったのだ。
やがて善哉やelevenとも知り合うことになるが、唯一パンダを──詩織を自然に独り占めできていたあの時を貴重だと、懐かしんでしまうのは仕方がないことだと思う。

……いつかまた、そうなればいいけど。

つまらない妄想に自嘲した、夏の始まり。

これがパンダとの出会い

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