庭球連載番外編 | ナノ


──その日は散々な日じゃった。

体調不良だと嘘ついて、朝練サボったんが真田と柳生にバレて大目玉を食ろうたし。
昼休み屋上で寝転がっとったら、右脚に鳥の糞が落ちてきよるし。
放課後呼び出された思うたら、数日前に告白され振った女が友人と徒党を組んで俺に「どこが嫌なの?なんで?付き合ってあげてよ」と責めてきた。悪いがこっちにも好みっつーもんがあるんよ。
終いにはたちが悪いことに、ビービーと泣き出すし。
……ほんま散々じゃ。






「…………え」
「……ほー、お前さんもこういうところ来るんじゃな」

滅入った気分転換でもしようと、俺は無意識に東京行きの電車に乗っていた。
そして赤也に倣うようにゲーセンで遊んでいたわけじゃが、ちょうどホールを出たら道路際に設置されてるクレーンゲームの前でボーっとしている夢野さんを発見したのである。

「ち、違いますよ!今日はただ雨宿りしていただけです。というか、仁王さんこそ、どうして東京に」

夢野さんに言われるまで気づかないのもどうかとは思うが、確かに雨がザァザァと音を立てながらコンクリート上で踊っていた。

「……電車乗り過ごしたナリ」

「そんなドジっこじゃないでしょう」

「じゃあ敵情視察じゃ」

「じゃあってなんですか、じゃあって」

まったくもう、相変わらずいい加減な人ですね。と頬を膨らませた夢野さんにドキリとする。

可愛い。
素直に彼女の横顔に魅入ってしまった。

……こんなにも、隣にいてそわそわと落ち着かなくなり、緊張してしまう女は俺にとって夢野さんしかいない。
それは断言できる。
俺にとって、あの数年前の──彼女が挫折を味わって泣いていたあの──出会いから、夢野さんは特別な存在なのだ。


「……本当は──」

「はい?」

──本当は、お前さんの顔が見たくなったから東京に逃げて来たんかもしれん。

「……否、やっぱなんでもないナリ」

そう頭を振ってから、俺は穫っていた景品の内のパンダピンバッチを彼女の胸元につけてやる。

「……あ」

パンダピンバッチを見つめてから、大きく目を見開いたまま夢野さんが俺を見上げた。
仄かに頬が紅潮している気がして、もしかして好感度的なものが上がったんじゃ?!と期待してしまう。

「り、リアルに変態ですか?!胸触るなんてっ」

「なっ、ち、ちがっ」

「うわぁあ、真田さんか柳生さんに電話してや──」
「誤解じゃ!誤解!!なんでも奢るからっお願い止めてくれ!」
「──わぁい、このクレーンゲームの巨大パンダくんが欲しいですっ」

にっこーっと大げさなくらいの効果音が聞こえそうな満面の笑みで笑った夢野さんに思わず脱力した。


……飲み込むように隠した本音をいつか彼女に伝えられる日がくるなら、俺は今日というこの日を笑い話にするかもしれん。




―――――――――
橘樹里様へ。
少しでもニヤニヤしていただければ、幸いです。
ほんのり甘くをモットーにしてみましたが、方向性が間違っていたらごめんなさい。


雨に流されるがまま飲み込んだ言葉は

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