頭を振り、必死に真田さんにしがみついている夢野は泣いていて。
当初、何こんなところで男に抱きついてるんだ?と思っていた考えを捨てる。
これはそういう意味じゃない。雷が怖いんだ。否、怖いと簡単に口にできるようなレベルの話じゃなくて……そう、トラウマ。
これはそういう反応だ。
「……ねぇ、落ち着きなよ。真田さん、困ってるじゃん」
「やだっ、やぁっ!いっちゃいやぁ?!」
「……む、むぅ」
それでもどこか面白くない気持ちがあって、とりあえず背中を撫でながら声をかけ、真田さんから離そうとした。
だけどイヤイヤと首を振り、さらに真田さんに抱きつく。
ちょっと顔を赤らめてる真田さんにイラってした。何、何なの。なんでこの状況で照れてんの、この人。
「……ちょっと、大丈夫だから意識戻しなよ!アンタ、今独りじゃないんだから!」
脳裏に過ぎった飛行機事故の詳細。
大きめの声でそう言った途端、また空がゴロゴロと唸り、稲妻が走る。
「いやぁっ!」
それに飛び跳ねて、夢野は今度は引っ剥がそうとしていた俺に抱きついてきた。似たような身長の彼女を支えようと足に力を込めるけど、いきなりだったのもありバランスを崩す。
──チュ……
転んだ俺の唇に柔らかいものが当たった。
尻餅をついた痛みを忘れさせるぐらいの衝撃だ。
「…………っ」
濡れた瞳が見開かれて、驚いたような表情で俺を見ている。
俺もすぐ目の前にある、その間抜けな顔を見つめた。
「……け」
バタバタと駆けてくる数人の足音と「夢野さん、どこですか?!」「おい、夢野っ!」という呼び声。
「けしからーんっっ?!!」
そしてペンション中に響き渡ったんじゃないかってぐらいの、真田さんの叫び声。
…………マジで五月蝿いんだけど。
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