詐欺師と動揺
「……やーぎゅ。負けてしもうたなり」

「はは……お互いに動揺してしまったようですね」

フェンス向こうにいた柳生に声をかけたら、苦笑いを返される。
先程の練習試合では柳生が山吹の千石に。
今は俺が青学の不二に。

「……ふふ、動揺ってあの子に、だよね?」

「……プリッ」

不二が目を細めたまま俺の背後に立って、氷帝と四天宝寺が固まってる付近を指差した。
答えんつもりじゃったのに、不二はその微笑みを崩さんと青学が集まっちょる場所に歩いていく。

なんちゅーか、あぁいうタイプは苦手ぜよ。
たぶん、うちの部長を思い出すからかもしれん。

「……それにしても、テニス強い人好きです、ですか……」

「……跡部に言わされたんじゃろ。彼女はあんまそういうこと口にするタイプじゃなか」

俺が知っとる限りは。


しかし、驚いた。

この面倒くさいだけの合宿に彼女がいたこと。
昼食ん時の氷帝のヤツらとの弾んだ会話。

……そして

「……どういう関係なんじゃ」

あの四天宝寺の二年。名前は確か財前か。

他にもどういう知り合いなんだと問いたいヤツが数人いる。

俺の知っちょる夢野さんは、あんま人と関わってなかったはずだ。

同じ学年の三船流夏という女以外は。


「……面白くないなり」

拗ねたように呟いてしまった俺に、柳生がまた苦笑した。
眼鏡の奥の瞳は見えんが、雰囲気は伝わる。
だから考えていることは同じはずだ。


「……しかし、仁王くん。動揺を対戦相手に悟られるとは、詐欺師としてどうなのですか?」

「…………ピヨ」

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