なんでかっていうたら、スカートの横ポケットから、ジャラジャラとパンダストラップが幾つも揺れとるし、大体このペンションに女子はパンダしかおらんのはあらかじめ知っとる。
せやから、俺は珍しく急いでパンダの元に駆け寄った。
なんやねん。白石部長、何ぎょっとした顔してんのや。否それよりも
「……パンダ、見つけたで」
「ど、どなた──違う、もしかしなくても、あ、あなた様は善ざ──」
「ちょお、向こうで話そか」
金ちゃんと白石部長の視線がうっとい。
俺はパンダの右手を白石部長から取り上げて、少し離れた木陰まで引っ張った。
なんや部長が固まっとったけど知らんわ。
後、ホモップルがやたら煩いけどアンタらキモいねん。黙れや。
「……チッ。なんで他のヤツらもこっち注目しとんのや。テニスコートに雷でも落ちたらえぇねん」
「わぁ。予想よりも毒舌さんだー……そしてピアスしてる……」
刺すような視線に苛々しとったら、パンダがぶつぶつ言うとった。
あんまよう聞こえへんかったけど。
「……俺が善哉やで。本名は財前光、言います。チャット仲間や言うんは内緒でお願いしますわ」
その方が周りの反応おもろそうやし。
「夢野詩織です。そうだね、内緒の方がいいよね!elevenさん、驚かせたいし!」
そう笑ったパンダもとい夢野は、ほわんとした空気を醸し出した。
さすが動物のハンドルネームなだけあるわ。癒し系やな。
ほんま、素直そうなヤツ。……イジメんのが楽しいタイプやわ。
あ、それよりも……
「……elevenがどいつか、目星はついとるん?」
「……いやぁ、山吹中学の人だとは思うんだけど」
「……ふーん」
適当に相槌を打つ。
実は参加校のメンバーは部長に聞いて資料もろたから、俺はelevenがどいつか、確信を持っていたりした。
室町十次、やと思う。
十の次は十一やから。それでelevenなんやろう。
「……財前くん?」
「あぁ、なんもあらへん」
俺が黙ったからか夢野が首を傾げていた。
柔らかそうな栗色の髪が風に揺れる。
「……そ、そっか。あ、あの、それではそろそろ私はペンションに戻るよ。何やら睨まれてる気がする……ぶ、部外者は出ていけって感じっぽいし!」
「……は?」
怯えたように夢野が後ずさるので、後ろを振り返ってみたら、さっきよりも色んなヤツにガン見されとった。
つか、謙也くんも試合中のくせに何集中切らしとるんや。ちらちらこっち見やがって。ほんまウザいなぁ。……あ、あの地味な対戦相手に負けよった。だからヘタレスターはこれやから……
そこまで考えて、視線の意味するところを理解する。
あぁ、俺らの関係性気にしとんのか。
全員がこっちに興味津々つーわけではない。現に気にしてないやつはたくさんおる。だが、視線を浴びせてくる中に、ただの好奇心だけやなくて、むちゃくちゃ俺だけを確実に睨んでいるやつが二、三人。否、訝しげな感じなら割増。
「……なぁ、お願いあるんやけど」
「……え、何?」
夢野の腕を引いて耳元にわざと唇を寄せる。
謙也くんが転けよった。あかん、ウケるわ。
「……下の名前で呼ばせてもろうてもえぇっすか?俺も光で頼みます」
「え?あ、うん?」
曖昧に頷いた夢野……あぁ、詩織やっけ。
取りあえず、そのままペンションへ戻ろうとしたから、無理矢理テニスコート前のフェンスまで引き摺ることにした。
「ちょ、財──あ、えっと、光くん!私、部外者!!迷惑だから!」
「跡部さん、応援くらい迷惑にはならんでしょ?」
「……あぁ」
「跡部様!まさかの承諾ですか!」
氷帝の部長さんが近くにおったから尋ねれば、すぐに詩織は静かになる。
「……俺、次、Dコートで試合なんすわ」
「あ、ねぇーちゃん、応援してくれんのか?!ワイも今から試合やねん!」
俺と同時に金ちゃんも彼女にそう呼び掛けるから、余計に注目を浴びた。
「……よろしゅう頼んますわ」
「…………あぁ」
そう言って軽く頭を下げた相手は、眉間の皺を必死に隠そうとしている。
やけど、もう手遅れですわ。
アンタの視線を一番感じたし……
「……え、光くんの相手、日吉くん?!」
パンダ──詩織の声にぴくりと震えたところも、俺は見逃さなかった。
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