「あぁあかん、俺やってもうた……」
「……なぁ健ちゃん。蔵リンどないしたん?金太郎さん追いかけて行った後から変やない?」
「あー……放っといてやってくれ。ハンカチの君がおったらしいねん」
「キャアァ、ハンカチの君やなんてなんやの!アタシ聞いとらんで〜」
俺のすぐ後ろでケン坊に話を聞いた小春が騒ぐもんやから、少し冷静になった。
つーか、あかん。
金ちゃんから目ぇ離すとこやった。
銀が見とってくれてるから良かったけど、またあのゴンタクレが暴走したら、俺が止めなあかん。
「……まぁ蔵リンよりも重症なんは謙也くんやけど。何回話しかけても上の空やわ〜」
「謙也、お前死なすど。俺の小春が心配しとるやんけ!返事くらいせぇや!ボケっ」
「…………」
不意にそんな小春とユウジの声が聞こえて、振り向いたら確かに謙也がアホ面で口を開けて歩いている。
「……なんでや」
「なんでや……って、白石、金ちゃん連れて帰って来てからコイツこんなやで?」
ケン坊が呆れたようにため息を吐き出した。
そんな言うたかて、謙也なんか見とる余裕なかったし……
「なんやねん、無視すんなやヘタレ!」
「だ、誰がヘタレやねんっ!!」
ユウジが苛々したのか、謙也の後頭部を思いっきり叩きよった。
その衝撃に謙也は我に返ったようやったが、何か腑に落ちん。
「ユウくん、離したり!それで謙也くんはなんで魂抜けてたん?」
「うえ?!い、いや、俺は……その、……実はペンションの三階にいた子に……一目惚れして、もうた、みたいやねん」
「はぁ?!」
つい大声出してもうた。何やて?
真っ赤になって俯く謙也はもごもごと、せやから一目惚れしたんや。ともう一度言いよった。
「謙也、ちゃう。きっとそれはものすっごい静電気や」
「は?」
「……白石、それお前やろ」
ケン坊につっこまれたが、無視して一目惚れが発生する確率について昏々と語ってやる。
というか、いつもなら謙也のこんなアホな発言に辛辣に突っ込むやつはなにしとんねん。
そう思って後ろをさらに見れば、千歳とだらだらと歩いている財前の姿があった。耳にはイヤホン。何音楽聞いとんねん。
「……よぉ。遅かったじゃねぇの」
威圧的な声に振り向けば、筋トレをしている他校のテニス部員らがいるテニスコート横で跡部くんが立っていた。
跡部くんの横にはオサムちゃんもいる。大方、俺らが到着に遅れた理由を説明しといてくれたんやろう。……掻い摘んで適当に。
とりあえず、謙也にはもう一度「一目惚れは勘違いやで」と告げておいた。
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