これで万々歳だ。
だけどまぁ、そこで人生がぷつりと終わってしまうことはなくて。
俺の人生や学校生活はこのまま普通に続いていく。
来年だってあるし、ぜってー二連覇してやるぜ!と気合いは入るわけだがその前に。
『もしもーし?桃ちゃん?』
「おう、夢野。こんな時間に悪かったな……その、寝てなかったか?」
『うん、大丈夫。お風呂にも入ったとこだったから』
風呂上がりなのか。って考えて顔が熱くなる。
やべぇ。変な想像しちまった。
「二日後、コンクールだよな」
『そうだよー!緊張するけど、頑張るね!桃ちゃんや他の皆にもたくさん勇気をもらったから』
「そ、そうか?」
『うん!』
電話向こうの声の弾み方から、今どんな表情で笑っているのかすぐに想像がついた。
「その、頑張れよ!ぜってー応援に行くからな」
『ふふ、ありがとう!嬉しいなー。私、そんなに仲のいいお友達って今まで流夏ちゃんぐらいしかいなかったから、お友達が応援に沢山来てくれる状況が想像つかなくて……』
その言葉に俺はつい「へぇ、たくさん……ねぇ」なんて呟いてしまって。
あまりにも思いっきり嫉妬心を出してしまったことに自分自身が一番焦った。
しかもお友達、なんだよな。とか思ってしまうのも嫌だ。
『うん!皆来てくれるって言うから。あ、もちろん、社交辞令かもしれないけど……、ちゃ、ちゃんとわかってるよ!真に受けてないからねっ』
そう必死に言葉を並べる夢野は俺の発言を違う方向に汲み取ってしまったらしい。
アホだな、なんて思った。
自分の魅力にまったく気づいてねぇーんだな。コイツ。
「お前はさぁ、ちったぁ真に受けた方がいいぜ」
『へ?』
「……夢野」
『え、な、何……?』
すぅっと息を大きく吸って。
スマホに向かって俺は声を出す。
「お前はめちゃくちゃ可愛い!」
はっきりとそう告げてから、全身がもう痒くて熱くて仕方がなかった。
『え、あ、え?!あ、おあ、ありがとう?!』
「じゃ、じゃーな!!腹出して寝るんじゃねぇーぞ!風邪ひくからなっ」
もう返事が聞こえてくる前に、俺は通話終了を連打して。
スマホをベッドに放り投げてから、鳥肌みたいなんがブワッて発生した全身を両手で擦る。
「かーっ!!桃城武、何言っちゃってんだよ!意味わかんねぇよ!!次どんな顔して会うつもりだよ!!」
自室のフローリングの上で暫くドタバタと足音を鳴らしていたら、廊下の先にある階段下から「武ぃっ!!何時だと思ってんの!!」と母ちゃんの怒鳴り声が聞こえてきた。
……あー、あんな恥ずかしいこと言っちゃいけねーな、いけねぇーよ。
今度は怒鳴られねぇように、ベッドの上にダイブしてごろんごろんと悶えるのだった。
(side 桃城武)
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