「詩織、今日はやたら携帯を触るわね。妖しいわ」

「へ?」

「彼氏でも出来たの〜?」

「ぬぁ?!」

昼休み、篠山と及川に詰め寄られた夢野の姿があった。

どうやら、夢野のメールの頻度がいつもより多いということらしい。

それよりも、夢野は何故あぁも変な奇声ばかりあげるんだ。耳障りなんだが。


「うふふ、拝借〜」

「よし、タマ!よくやった!!」

及川が夢野の手から取り上げた携帯電話を掲げれば、篠山は意地の悪そうに笑う。

前から気になっていたが、何故及川はタマという猫みたいなあだ名なんだろうか。……否、確か下の名前が珠代、だからか。

「ちーちゃん、捕まえていてね〜」

「任せてー」

「うをあ、何これ人権侵害?!」

篠山千早だから、ちーちゃんか。安直だな。

そして、夢野はあれで抵抗しているつもりなのだろうか。だとしたら、コイツはそこらへんの小学生にもやられるタイプだ。弱い。最弱。


「…………え〜?」

及川は拍子抜けしたような、気の抜けるような声を上げる。

聞き耳を立てている俺が一番謎だったが、気になってしまうものは仕方がない。

初めから、夢野のメールの相手なんて男ではないとわかっていたが。否、男でも俺には関係ないが。

「……薫ちゃんに流夏ちゃんに桃ちゃん、キヨ子さん?女の子ばかりね。唯一の男はおじさんの榊先生だけだし〜」

それにホッと息を付く。……意味がわからん。何を安堵している、俺は。

「……それよりも」

「「登録件数五件って」」

篠山と及川は自らの携帯電話を取り出すと、そっと赤外線通信を行っていた。


……それでも七件である。


今名乗り出たら、夢野の電話帳に同級生の男として初めて登録されるのか、と

そんな考えが浮かんだが、慌てて首を振った。頼む、ここ数日可笑しいぞ、俺。冷静になれ。


(side 日吉若)

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