「……あぁ、あの洞窟の奥の洋館で、ですね。すみませんでした、仁王君」
いや謝罪が欲しいわけじゃなか。
何故か、という理由が聞きたいだけじゃ。
「何を思っとったんじゃ」
「……想像通りだと思いますよ」
困ったように眉尻を下げながら、柳生はそう言いはなった。
俺の、想像通りなら……
「……夢野さんに本気なんか」
「えぇ。幸村君や他の方々に後れをとるわけにはいきませんから。ですが幸村君を試すために、貴方の姿で挑発してしまったことは謝ります」
淡々と答える柳生にいつの間にか苦しくなっとった。
それが表情に出ていたらしい。
柳生がまた俺に困ったように笑う。
「……仁王君も、わかっているでしょう?」
それだけ言って、肩にぽんっと手を置かれた。
わかっとる。
わかっとるんじゃ。
はぁっと息を吐き出した時には柳生はもうそこにはいなくて。
星が輝き始めた夜空を黙って仰いだ。
もう明日の昼にはこの合宿は終わる。
世間では夏休みが始まっていて、全国大会は三週間ほど後だ。
「……聴きたい」
今すぐあの優しい音色に包まれたい。
柳生が入っていった建物の白い壁にもたれた。
夜のせいでどこかひんやりとする。
目を閉じれば、夢野さんのヴァイオリンを弾く姿がすぐによみがえった。
彼女のヴァイオリンの音色を思い出しながら、壁を叩く。
「わかっとるナリ。……このまま何もせんかったら、それこそあん時の自分より情けないだけじゃ」
小学生の自分は拙い字で行動を起こした。
それが彼女の力になっていたことはいまでも忘れられないし、それが自惚れになっていたのかもしれない。
「……今度はこの言葉で」
伝えてみよう。
君の音楽はいつでも俺に勇気をくれるから。
(side 仁王雅治)
14/22