「……ウス」
樺地の返答に目を細める。
確かにこの全国大会前に行われる合宿に参加を決めたヤツらの大半が、夢野と関わりがあったヤツららしい。
さすがに沖縄の比嘉中と知り合いがいるはずないと思うが、六角やルドルフとも知り合いがいたのを考えれば、その可能性はゼロではない。
「……ま、今回はさすがに夢野についてきてもらっちゃ困るんだがな」
「ウス」
榊監督とも話し合った。
何故かといえば、四天宝寺の顧問を代表に「合宿するならあの子連れていかれへん?」と夢野に対して声がかかっていたのである。
どうやら四天宝寺の顧問曰く「うちのヤツらのやる気スイッチ押してくれそうやし、面白そうやん」とのことだ。
……確かにアイツはいい方向に影響を与えることが多いようだ。
だが今回の合宿は、肉体面のみならず精神面も強化するべく、大掛かりな仕掛けなどを用意している。
まずその仕掛け自体が夢野のトラウマを呼び起こしてしまう危険性があるのだ。
「……いやその前にテニス部関係ねぇやつだろ、なぁ樺地」
「……ウス」
はぁっと頭を抱えた俺を樺地は微笑ましそうに眺めていた。
……いつの間に
こんなにもそばに置いといても違和感がないと思えるようになったのだろうか。
『というか自意識過剰過ぎるよ、跡部様。アーンって鳴き声ですか、跡部様』
……あの時、ただのアホだと思った。
生意気なアホだな、と。
その第一印象がひっくり返ったのはいつだっただろう。
「……あぁ、タイスの瞑想曲だったな」
「……ウス」
そこからゆっくりと、アイツはヴァイオリンの音色と同じように、心にじんわり染み込んできたのだ。
(side 跡部景吾)
12/22