──退院したとしても、テニスはできないかもしれない。
その話を聞いた直後の幸村はひどく荒れたものだ。



「……大丈夫か、幸村」

「あぁ真田。俺は大丈夫だよ」

そう薄い笑みを口元に浮かべる幸村が、どこか無理しているように見えた。
退院許可が出たとはいえ、いまだに顔色の悪い幸村にどういった言葉をかければ正解なのか俺にはわからん。
無意識に幸村を傷つけるかもしれないと思い、口を噤んだ。


「弦一郎、精市。遅くなってすまない。……実は氷帝の跡部から全国大会前に大規模な合宿を行うが、参加しないかと連絡がきたのだが……」

「跡部、からかい?」

目を細め、病院の玄関口で合流した柳に幸村はたずね返した。

「……あぁ。参加校は前回の合宿の倍になる予定だそうだ」

「……そう。潰したいヤツが何人かいるんだよね。だからいいよ。全国大会前に再起不能にしちゃうかもしれないけど」

「幸村──」

ふっと暗い表情のまま笑った幸村が気になり、声をかける。
だがそのまま俺をみた幸村は悲しそうな顔をしていた。
思わず言葉に詰まり、柳に視線を向ける。

息が詰まりそうな短くも長い沈黙。

「……あぁ、赤也たちも来たようだ」

張り詰めたような空気を変えるように、助かったとばかりにかけてくる仲間たちを見る。
声をあげた柳もどこかホッとしているようだった。





「……ねぇ、ところでさ。全員が付けてるソレなぁに?」
「……む?これは御守りだ。夢野がくれたものなんだが──」
「ちょ、真田副部長っ!空気読んでくださいっ!!」

再び幸村の機嫌が悪化したのは、帰りのバスの車内だった。
実は夢野からまだ見ぬ立海の部長さんへと、幸村用にも預かっていると柳が言ったら、幸村の怒りは沈静化した。

……その後、赤也たち全員に叱られたのだが、俺は何かまずいことを口にしたのだろうか。
家に帰り着いてからもよくわからなかった。



(side 真田弦一郎)

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