入浴時間までは少しあるし、真田副部長と一緒の部屋ではゲーム機とか取り出せないので、そこにいくことにした。こっそりポケットに携帯ゲーム機を忍ばせたし完璧だ。
丸井先輩に連絡しようかとも思ったが、何やら昨日から「赤也、三階探険しようぜぃ!」と五月蠅いから、やっぱりやめる。三階なんか探険したら夢野に会っちまうかもしれねぇし……アイツ見てるとイライラして、異様に落ち着かなくなるんだ。
「……っ」
休憩所に着いたと同時にひどく動揺した。
少し先の廊下に夢野と青学の不二さんがいたのだ。否、なんで俺が動揺しなきゃいけねぇんだよ!
大体、こんなところで何してるんだろうか。つか、夢野はなんであんなに色んなヤツと話してるんだ。
……もういいや。気にせずゲームでもしようと思ったところで、俺は大声で叫んでしまう。
「おい、夢野っ」
「え?!」
「……あぁ、立海の切原が呼んでいるみたいだね。じゃあ僕はこれで部屋に戻るよ」
クスッと小さく笑われたのがかんに障る。なんだよ、なんなんだよ!くそっ。
「……き、切原くん?」
俺に近付いてきて不安そうにしている夢野をつい睨んじまった。
否、でもイラつきはコイツのせいでもあるし、謝る必要はねぇか。
つか問題は、さっき不二さんが夢野の髪に触れようとしたことを本人が気付いてないことだ。
「……お前、不二さんに何言われてたんだよ」
「え?……えっと、障害物競争の頼み事についてかな?」
……なんでその話で、不二さんが髪の毛触る行動に移るんだよ。
髪に口づけでも落とすんじゃねぇかってぐらい、距離近かったんだぞ。
「……それで頼み事ってなんなんだ。滝さん、だっけか。優勝した人」
「……あ、えーと」
「……俺には教える義理はないってことかよ」
「ち、違う違う!あ、あのね、着せ替え人形になってねって頼み事だよ!榊おじさんが用意してくれていたひらひらふりふりの衣装がたくさんあってね……」
睨んだ俺に夢野は慌てて早口でそう言った。
……意味がわかんねー。なんだ、着せ替え人形って。
「……あんなお姫様みたいな洋服似合わないのは私が一番わかってるんだけどさ」
「んなことねぇんじゃないのか」
「……え」
むしろ、俺のイメージではそういう女らしい服を着るの似合うやつだと思うぜ。と、そこまで口に出してからハッとした。
驚いた表情で「……あ、りがとう」と呟いた夢野に一気に顔面に熱が集まる。
「お、おお俺は色っぽい服が似合うヤツの方が好みだけどなっ!」
慌ててそう言うが夢野はもう一度礼をのべてくる。ちっ、なんで笑ってやがるんだ、コイツ!
「……そういえば、切原くんと私、立海で話したことないよね?」
「…………あぁ」
「うん、そっか。やっぱりそうだよね!あ、慰めてくれてありがとうっ!じゃあそろそろ移動するね」
別に慰めたわけでもねぇし。
パタパタと階段を登っていく夢野を見ながら、俺は廊下の壁を殴った。
「…………確かに話したことねぇよ」
お前はずっと三船と会話してただけなんだから。
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