不意に斜め後ろで柳くんがそう呟く。
既に前を走っていたはすの仁王くんも丸井くんも姿が小さくなっている。
「……何がでしょう」
「この障害物競争だ。おかしいと思わないか」
「……障害物の選択がおかしいとは思いますが」
肌を露出させた水着姿の女性やら、電気ウナギやら……中にはピンポイントで苦手なものを狙ってきているものなどがあった。
「……ふむ」
そう柳くんが考え込むような素振りを見せたころ、突然どこかにあるスピーカーから放送が流れ始める。
『あー、マイクのテスト中ー……よし、聞こえてるみたいだねぇ。……さて、中には気付いた輩もいると思うが……ここからが本番だよ!』
声の主は青学の先生のようだ。
ですが、ここからが本番とはどういうことでしょうか。今までもかなり手の込んだものでしたが……
「……やはり、あれはそういうことだったか」
前を走っていたはずのメンバーが何故か足を止めている。
この広場はなんでしょう……と思っていたら、柳くんが口角をあげる。どうも彼にはこの障害の問いの答えがわかったらしい。
「さぁ答えがわかった奴は俺に言うんやでー。そしたら前に進んでもええわ。ただし、答えがあってるかは教えへんで。ちなみに答えによって道は三パターンに別れるからなぁ。正解、惜しい間違い、完全な間違い」
いつからこの場所で待っていたのか、四天宝寺の先生が笑いながらそう言った。
「……では柳生、俺は先に行かせてもらうぞ」
答えによって選ばれた道が正解か間違いかわからないまま進むのは正直不安に襲われる。
ふっと笑みを浮かべた柳くんのように絶対的な自信がなければ……
「だーっ、いくら考えてもわっかんねぇよぃ!つーわけで……」
唸っていた丸井くんが大声を上げて柳くんと同じように渡邊先生へと答えを告げにいった。
その行動に切原くんや他校の人たちも続いていく。確かに後方の人たちも続々とたどり着いているし、早く決断を決めてどれかの道を進んだ方が無難かもしれません。
《この障害物競争に隠されていた言葉から連想されるものを答えろ》
「…………言葉」
確かに障害物に何か英数字の書かれた紙が不自然に貼られていた気がします。一応は気にしていたのですが……
「……にゃろう。……祝日以外に……」
隣で舌打ちした越前くんもきっと私と同じ状態なのだと思った。
「……0505……The girl ……」
そこまではわかっているのです。
ですが、端午の節句は男の子の日のはず。なぜ、girlという単語が入っているのか。
それ以降の単語は、あの水着の女性たちの胸元に貼られていたため、直視出来ませんでした。
「……あぁ、わかったばい」
先ほどここに到着したばかりの千歳くんが下駄を鳴らして渡邊先生のところに歩いていった。
焦りが募っていく。あぁ、本当に……
「……やーぎゅ、後半は of a miracle ナリ」
「……仁王くん?」
耳元でぼそりと囁いてきた仁王くんに驚き振り向いた。
「……前半はまったく気付かんかったんじゃが。あの水着の女たちから目線外したら、たまたま目についたんでな。……誰も協力したらダメだとは言うとらんし」
──The girl of a miracle……
「……仁王くん、行きましょう。答えはわかりました」
5月5日の奇跡の少女、つまり答えは夢野さんだ。
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