*手取り足取り悶々むらむら

『……え、背泳ぎなんて出来ませんよ?!』

そう情けない声を出した夢子ちゃんの台詞を俺は聞き逃さなかった。




――季節は、夏

ここ、婆裟羅学園の体育の授業も水泳に切り替わっている。

そして待ちに待った、今年初水泳授業を週明けに臨む金曜の放課後、かすがと話していた夢子ちゃんが冒頭の台詞を吐いたのだ。

「何々〜?お困りですか、夢子ちゃん?」

わざとらしくそう声をかければ、かすがが嫌そうな顔をする。

「佐助、お前には関係な――」
「聞いたぜ?ha!!仕方がねぇ。honey、俺が手取り足取り、背泳ぎをlectureしてやろう」

そして俺にしっしっとあしらうように手を動かすが、乱入者によって硬直した。

「あはー、竜の旦那、俺様の台詞取らないでくれる?」

「Ah?なんだ猿、俺の邪魔をする気か?」

暫く竜の旦那とにらみ合っていたら、いつの間にか夢子ちゃんの手を左右それぞれ風来坊とナルミチャンが握っていた。

「夢子ちゃん、俺が明日教えてあげるから、安心してね!」

「ははっ、成実は面白いなぁ。俺が教えるから大丈夫さ!」

「夢子、夢子殿、お、俺が……」

真田の旦那まで混ざっている。

『……皆さん、ありがとうございます!うぅ、背泳ぎできるように頑張りますっ』

そして、俺ら男の欲にまったく気づかないまま、夢子ちゃんは感動したように瞳を潤ませていた。





「……それで……市と、長政様も……誘ってくれたのね……」

「あぁ、私では手に負えなさそうだからな。あいつらが夢子にバカなことをしでかしたら頼む」

次の日、市民プールに昨日のメンバーが集まったわけだけども。

夢子ちゃんの水着を堪能する前に、かすがの横で独特のオーラを醸し出しているお市ちゃんに苦笑した。

否、アンタら、後ろで悪とか正義とか叫びながら、飛び込み台を占領している人どうにかした方がいいと思うんだけど。



「……shit!」

竜の旦那が舌打ちして、他の面子も俺様を羨ましそうに睨んできた。

『あ、では佐助くんが先生なんですねっ』

無邪気に笑う夢子ちゃんに小さく頷く。

あ、ダメだ。
思いっきりにやけてくるんだけど。

夢子ちゃんに背泳ぎを教えるのは誰か決めるために引いたくじの当たりに、心の中では超ハイテンションだ。

それを顔に出さないように必死なんだけど、後ろの面子もあり、口元が緩みっぱなし。


「……ん、まぁ、とりあえず、仰向けで浮いていられるよね?」

『は、はい、たぶん』

かすがに睨まれていたので、慌てて咳払いをした。

夢子ちゃんは素直に、胸元下あたりまで水に浸かっている俺様の前で、仰向けになり水面で浮いた。

「…………」

大きな胸が少し形を崩しているのとか、やけに興奮する。

ビキニじゃなくて、ワンピースっぽい水着だけど、やたらエロいな。

「あー……じゃあ失礼して」

『……っ』

背中に手を添えて沈まぬようにしてから、腕を回すように指示した。

一生懸命に腕を動かす夢子ちゃん。
それなりに形になっている。
ただ、怖いのか目をつぶっちゃってるけど。

「あぁあぁ、佐助、なんて破廉恥なことを」

「チッ!」

旦那らの台詞を受け止めながら、視線はずっと夢子ちゃんの胸元にいっていた。

……うん。
ごめん、これヤバい。

「プールの中で俺様の息子が大変なことに」

「長政」
「長政様……」

「うおぉ、悪は削除だ!」

うっかり呟いてしまったおかげで、浅井の旦那が飛び込み台からライダーキックで飛んできた。
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