――武田や上杉までもがこの世界にやってくるとは思わなかった。
なかなか理解をしない面子に、いつものように笑いながら説明を続ける夢子に何故か苛々が募っていく。
そもそも、こいつらを相手にしている場合ではないだろう。 説明など菊一にでも任せておけばいいのだ。
「…………私は貴様の特別とやらを聞かねばならんのだ!」
たまたま昼餉を済ませた後、夢子と廊下でばったりと顔を見合わせることになったので、感情の勢いのままそう吐き出した。 夢子は驚いたような表情をしてから、すぐに小さく深呼吸を繰り返す。
『……はい、遅くなってごめんなさい。私の特別好きな方は石田三成さんといいます』
そしてそう言った。
私は思わず目を疑い耳も疑った。
にこにこと赤面した顔で微笑みながら、夢子は何と口にしたのか。
「……貴様、ふっ、ふざけるな!」
『そんな、ふざけていません。本気です!……あの雨の日に、三成さんに告白されてから……そして逃げ出してしまってから、ずっとこの胸に何かが引っかかっていたんです』
そして、と続けた夢子はぎゅうっと私に抱きつき、胸元に顔を埋めてきた。
『…………三成さんのにおい、安心します』
「〜〜っ」
全身が火照る。 熱が駆け巡り、もう何がなんだかわからなくなってきた。
夢子の言葉がきゅうきゅうと胸を締め付ける。ダメだ。もう私は冷静でいられそうにない。
「……う、嘘だと今更言っても斬滅するからなっ!夢子、私は貴様をっ、あ、愛しているぞっ」
『はいっ』
不器用に重ねた唇はぎこちなくなった。
だが、これから私は夢子と愛を重ねていくのだと思えば、その不器用な口づけですら誇らしくなる。
「…………これで、今より夢子に手を出す者は遠慮なく斬滅してやれるっ」
『…………半兵衛さんは?』
「……っ、」
『……あ、あの、泣かないでくださいっ、冗談ですっ』
石田三成
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