02


 

 それはまさに悪夢だった。

 誰も私の存在なんか認めてくれなかった。そう、誰も。

 それどころか、私の存在に気付いてさえくれない。

 どうして? 私、一生懸命頑張ってるのに──。

 手を伸ばす。

 触れたら雪の様に溶けてしまった。

 何度か試してみたけど──ダメだった……。

 手を伸ばす。消える。手を伸ばす。消える。手を伸ばす。消える。消える。消える。消える。キエル……。

 目の奥から溢れる物を感じる。

 ダメだ!! 泣いちゃ……ダメだ。

 泣いたらもっと存在を認めてくれなくなる……。

 精一杯、泣かない様に努力する。

 まばたきをしてみたり、上をみたり、首を振ったり。

 なんとか涙を堪えた、その時──今まで一切光が無かった空間に、光が射し込む。

 そうか、私には『あの二人』が──

「………ファ……ア、……ユミ」

 ……ん、誰……?

 私の名前を呼んでくれるのは?

「サファイア、ユミ」

 ……うん? サファイア?

 あ、そっか、私ルビーの家に──

「ニャア」

 スリ……。

「! エネコロロ……!」 

ガバッ!

「おはよ、ユミ。……どうしたの? 元気無いね」
「え……、そう……?」
「うん」

 なんだか自分ではわからなくて、エネコロロを撫でる手とは反対の手で顔をぺたぺたと触ってみる。

「………夢……」
「え?」
「多分、夢のせいだと思うんだ。……いつも、同じ夢を見てると思うんだけど毎回忘れちゃって」

 ぼうとしながら私が言うと、ルビーは口元に手を当て、何か考える素振りをする。

「『記憶喪失』と何か関係あるのかな?」
「それは──どうだろう」

 よくわからなくて、首を捻る。

 今考えると、いつも朝は変な汗をかいていて時折涙の痕が残っていたりした時があった様な──

 刹那、頭に鋭い痛みが走る。

 いつも記憶を遡らせるとこうだ。

 ちょっと……いや、かなり嫌気がさしてくる。

 その時、頭に温かい物を感じてそちらを見ると、ルビーが私の頭を軽く撫でていた。

「ルビ──」
「ゆっくり考えていけば良いさ」

 コクンと頷く。

 撫でてくれているのと、優しい言葉で頭の痛みが和らいだ気がする。

「さて、後はサファイアか」

 そう言うと、ルビーはサファイアさんに耳打ちをする。

『サファイア、起きないとキスするよ』

ガバッ!

 おぉ、流石。

「なんね! いきなり!!」

 朝っぱらから茹でダコなサファイアさん。

「サファイアがなかなか起きないからだよ」
「──な、やからって」
「さ、朝御飯だよ」
「はーい!」
「ちょっ!」

 私とサファイアさんは軽く着替えて下に下りていく。

 ママさんのご飯は美味しいから、今からとてもウキウキする。


 * * *


「美味しかったー。流石、お母さん。料理上手!」
「さて、サファイアは動き易いいつもの服として、ユミはこれね」

 ルビーが私に服を渡してくる。

「あ……、これ……」

 ……そういえば、私が着てたのって、ルビーが作ったんだっけ。

 軽くて動きやすくて、それでいてそれなりに丈夫で凄く役に立つ。

「あ、ありがとう……」
「良かったとね!」
「さ、着ておいで」
「うん!」





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