短編 | ナノ


この気持ちを伝えよう



「そう言えば、もうそろそろよね」

春休みにみんなで集まって買い物を楽しんでいた時、ふいにナミが口を開いた。

「…?何が?」
「やあね!彼氏持ちが何言ってんのよ」
「ふふ、その彼もお返しに悩んでる頃じゃない?」
「……あぁ!ホワイトデーかぁ〜」
「先月のパーティ、楽しかったわね」

ロビンが私に春の新作のプルオーバーを当てながら、いつも通り穏やかに笑う。あのチョコフォンデュをしていた時の彼女もまるで、その時いた場所が高級料理店のような品の良さがあって、つい見惚れてしまったものだ。

「楽しかったけど、ボニーちゃんの食欲に圧倒されちゃって………」

コアラちゃんはミニスカート片手に苦笑いしながらあの時のことを思い出していたようだ。ナミはと言えばなんてことないように「あんなのいつものことよ」言い捨て、ドンドン新作の春服を物色していく。

「そんなこと言ってたらルフィのが怖いわよ」
「あら…、どっちもどっちじゃないかしら?」
「それこそ何言ってるのよー、サボくんだって大概じゃない!ねぇアキラちゃん?」
「えっ」
「そうなの?」
「そうだよー!アキラちゃんなんか一緒にご飯食べに行く時とか大変じゃない?あれだけすごいんだから!」
「あ、あはははは………(否定はしない)」
「へぇ、知らなかった。私ルフィならしょっちゅう行くことになるからわかるけど…やっぱりサボもそうなんだ?エースも凄まじい食べっぷりだもんね」
「エースくんも?」
「すごいなんてもんじゃないわよ、ルフィが一緒だと奪い合いになるんだから!」
「それはサボもそうね」

淡々と付け足すロビン。今度は色違いの物とサイズを見比べながらコアラちゃんの服を見立てている。それに「コアラは春らしい淡い色が映えるわね」と一言添えて、コアラちゃんはそれに嬉しそうに顔を綻ばせていた。

「ロビンの言う通りだよ………一度その三人に誘われて焼き肉行ったときなんかもう………」
「「あーー………」」
「大変だったでしょう、アキラ」

よく耐えたわね、すごいわ。とロビンが頭を撫でてくれたが、正直苦笑いしかできなかった。あの時のことはもう細かく思い出せないし。

「なんとなく嫌な予感はしたんだけどね…」
「断りきれなかった?」
「ルフィくん……すごい誘ってくれるから…」
「あー、ルフィはね。一度言い出したら聞かないから」

ホントに嫌だったらきっちり拒否しないとわかんないわよアイツ、と大量の服を抱えたナミに釘を刺された。でも、

「ルフィくん、私がサボと付き合った時すごく喜んでくれたの」
「………」
「だからその時と両方すごく嬉しくて」

なんだかんだ気にかけてくれるから。

「………気持ちはわかるけど、アイツ多分そこまで深いこと考えてないわよ」
「そうかもしんないけど…それに一回はあの三人と一緒に出掛けてみたかったし」
「ああそう言えばアキラちゃん、それまでエースくんと話したことなかったんだっけ」

シャッ。
コアラちゃんはいつの間に入っていたのか、試着室のカーテンを開けて顔を出した。すでにワンピースに着替えていてその淡いタンポポのような色合いがとても似合っている。

「コアラそれいいわね、可愛いわ!」
「へへ〜似合う?」
「すごくいい!」
「ふふ、ありがと!それでどうだったの?」
「んん?」
「エースくんのこと。その焼き肉の時初めて話したんでしょ?どうだった?」
「どう、って言われてもなぁ…ほら、ご飯時だったし…」

正直、それどころじゃなかったというか。

『ああ…………』

今度は私以外の声、というか心情がきれいに揃った瞬間だったと思う。察してくれてありがとう…

「あ、でもね。帰りの時たまたまエースくんと二人になったことがあってね」
「へぇ、それでそれで?」
「ふふふ…それがね」

「お、誰かと思ったらナミじゃねぇか!」

少し低くて、でもよく通る声が聞こえたかと思ったら、

「あらウソップ。それにルフィも!」
「なんだオメーらも来てたのか!アキラも!」
「ルフィくん、久しぶり」
「おう!オメー、家に遊び来いっつってんのに全然来ないじゃねーかよー。早く来いよ!」
「ご、ごめんね…」
「ルフィ、前から今日はみんなで集まりましょって言ってたのよ。だからまた今度にしてあげてちょうだい」
「そうなのか?じゃあ仕方ねーなー。でもよォサボもエースも楽しみにしてるんだぜ、またメシ食いに来いよ!!」
「う、うん、ありがとうね」
「ちょっとルフィ、あんたこの前もアキラと焼き肉行ったんでしょ?程ほどにしてあげなさいよアンタとご飯行くとホントに戦争なんだから」
「なんだよ戦争って。メシ食いに行ってるだけじゃねぇか」
「そりゃ間違いねぇな。コイツ食ってる傍から人のモン横取りにかかるしよ」
「飛ばすしね」

ウソップくんとナミがじとっとした目でルフィくんを睨むと、当人はそっぽ向いて口笛を吹いていた。誤魔化しているつもりらしい。

「あ!そういやアキラ!」
「なぁに?」
「サボがよ、お前になんか…モガッ」

サボが?続きを言おうとしたルフィくんの口をウソップくんが慌てたように塞いだ。

(バッカ!それをお前があの子に言ったらダメだろ何やってんだよ)
(なんでだよ〜だってサボすげぇ準備してるしよー)
(だからそれはサボが言うことだろ!お前からバラしたら全部オシャカじゃねーか)

少し離れたところに移動した二人は何かこそこそと話しているようだった。

「サボがどうかしたの?」
「いいいいいやいやいやいやなんでもねぇよ!?何も言ってねぇ!だから気にしないでくれ!!」

じゃあまたな!とウソップくんはモゴモゴ言うルフィくんを引きずって颯爽といなくなった。何が起きたのか…ルフィくん何が言いたかったんだろう。

「なんだろね…あれ…」
「さぁ…?」

コアラちゃんと顔を見合わせていると、ナミは「あの二人の挙動不審はいつものことよ」と目線はとうに次の春服に向いている。マイペースだな。

「アキラ」
「何、ロビン?」
「例え察しがついても、時には知らないフリをすることも大人のマナーよ」

魅惑的な笑みを見せるロビンはその言葉の意味を何度聞いても教えてくれなかった。わからない時はわからないで大丈夫よ、と。

 
 ◇
  ◇
   ◇


(知らないフリねぇ)

自室で目を覚ましたホワイトデー当日。先日の買い物の時のこととロビンの一言がずっと引っ掛かっていた。よくわからないけど要するに、

(サボに直接この事を訊かない方がいい、ってことかな)

気になるけど私のことでルフィくんが叱られても嫌だし。仕方ないか、と何気なくベッドから起き上がろうとするとカサッと紙が擦れる音がした。紙?
手をどかすとそこには少しくしゃくしゃになったメモがあった。紺色のシンプルなメモ。

(あれ、これサボが使ってるやつ………)

おもむろにメモを開いた。

「………………!!」

ドンッ、バタバタバタッ…
思わず驚いて転けたけど、すぐに起き上がって部屋を飛び出した。キッチンに飛び込み急いで冷蔵庫を開けると、そこには高級感のあるリングケース。

恐る恐るそれを取り出す。震える手ケースを開けると、そこには私が前にカタログで眺めていたピンクゴールドの指輪が鎮座していた。
涙腺が緩みそうになる私を、いつの間に隠れていたのかサボは後ろから抱き止めてくれた。もうこれ以上何もいらなかった。


 ◇
  ◇
   ◇


「あのさ」
「…?」
「俺は、サボやルフィが笑ってりゃそれでいいと思ってたんだけどよ。でもサボはルフィにも俺にもあんたにも、ずっと笑っててほしいって言ってたんだよ」
「だからっつうのもおかしいけど、」

それで俺も、お前らがずっと二人で笑ってたら嬉しいと思ったんだよな。

「アイツ俺らと同じで我も強いからよ、かなり手もかかるだろうが…よろしく頼むな」

エースくんのあの言葉が私の中でしっかりと響いた。彼も私もこんなに想われていて、一体何をもって幸せというのだろう。

愛してる。サボの声で涙がこぼれた。





(バレンタイン企画「ただ傍にいられたら」続編。ホワイトデー遅刻。夢絵のお礼であいさんに捧げます)
2016/03/15 投稿
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