この先もずっと


「はいハック」
「む?」

後ろから声がかかったと思いきや、綺麗な小箱を渡された。

「なんだこれは?」
「今日はバレンタインなんだって」
「ば、ばれん、た?」
「バレンタイン。どっかの国ではお世話になったり大切な人に贈り物をする日なんだって」

じゃあ私もせっかくだからと思ってあげたい人にあげてるの、と彼女は答えた。

「そうなのか、ありがとう」
「どういたしまして。今さらだけど、食べられないものとかなかったよね?」
「食べ物なのか?」
「チョコレートをあげることが多いらしいよ」
「そうか…甘いものは好きだよ」
「良かった。じゃあ私はこれで」
「ああ、大事に食べるよ」
「こちらこそ、だよ。いつもありがとうの感謝の意を込めて」

彼女は茶目っ気を含ませてウインクすると颯爽と去っていった。さてこれは。

「うちのNo.2が黙ってる、わけはないな」


◇◇◇


「これ何?」
「ああ、アキラさんが今みんなに配ってるそうですよ」

会議室のテーブルの上にあるお菓子の入った籠に並び、みんなが次々と手を差し込んでいく様は少し異様だった。革命軍は意外と甘いもの好きが多いらしい。

「騒がしいな、どうした」
「ドラゴンさん!なんか、アキラちゃんが」
「アキラが?」

だいたいの子細を伝えると総司令官は納得したようで、メンバーから渡ってきたクッキーを一つかじりそのまま部屋へ引っ込んでいった。特にこの状態自体に興味はないように見えるけど、食べ物は別みたい。

「コアラちゃん!やっと見つけた」
「ちょうどいいところにっ。これなあに?」

そしてその時バレンタインというお祭り?の話を聞いたのだった。大切な人に贈り物をする日。その言葉に妙な予感を抱いた。

「というわけで、はいこれ。コアラちゃんの分」
「えっ?これ私の?」
「そうよ?さっきハックにもあげてきた」
「そうなの?!あれは?」

みんなが会議室で摘まむお菓子を指差すと彼女はああ、と事も無げに返した。

「みんなに一個一個渡してたらキリないから、他のみんなには好きなように摘まんでもらおうと思ってああしたの。コアラちゃん達のは私が個別に作りたかったから」
「そう…こんなに準備するの大変だったでしょう?本当にありがとう」

大切に食べるね、と続けるとアキラちゃんは照れたように笑った。

「そんなに言って貰えると嬉しい」
「ふふ、ところでアキラちゃん」

サボくんには、もう渡したの?

私のその一言を皮切りに、楽しそうにお菓子を摘まんでいたみんなの動きが止まったように感じたのはきっと気のせいではないと思う。

「ああ、サボ?まだ帰ってきてなかったからあとでいいやと思って」
「ま、まだ渡してないの…!?」
「?だって、早くしないとみんなに行き渡らないし…」
「アキラちゃん、今日の仕事は?」
「えっ?もう終わったけど…」
「じゃあお願いがあるの」

私は彼女の両肩を掴み、真摯に伝えた。

「今すぐサボくんの部屋に向かって?私がサボくん連れてくから!入れ違いになったら困るし、ね?」

アキラちゃんは私の勢いに飲まれたのか、「わ、わかった…」とだけ言って部屋を出ていった。そしてサボくんの部屋の方向へ行ったのを確認すると、

「みんな、ひとまず二人が戻ってくるまでそのお菓子があの子からのだって言っちゃダメだよ」

誰かからのお土産だって口裏を合わせて徹底してね?とその場にいる全員に呼び掛けた。一人残らず青い顔をして大きく頷き、慌ただしく動き出す。
私も行かなくちゃ!


◇◇◇


「なんだってんだよ………」

帰ってくると早々に捕まり、「いいから何も言わずに真っ直ぐ部屋に行ってお願いだから」と報告はやっておくからと会議室から放り出された。いつもだったら先に報告を済ませろ!って怒るくせによ。
ま、いいや。それよりもアイツはどうしてるかな。
おもむろに自室のドアを開けると、

「お帰りー」

アキラが俺のベッドに座っていた。おいおいおい。

「なんで俺の部屋にいんだ…?」
「えっ?何も聞いてないの?」
「何をだよ」
「えー…妙だな…まあいっか。はいコレ」

アキラは軽く首を傾げたが、気を取り直したように何かを手渡してきた。掌より少し大きい、綺麗にラッピングされた箱だった。

「なんだ?これ」
「今日は贈り物をする日なんだって」
「そうなのか?初めて聞いた。ありがとな」
「いーえ。どっかの国ではそうらしいよ。じゃ私はこれで…」
「まぁ待て。ところでそれはよ」

誰に何のために贈るんだ?
俺の問いに彼女は少し躊躇したようだった。

「お世話になってる人…とか、大切な人に贈るんだって」
「大切な人?ふぅん…」

そりゃまた、なんで?
俺は未だベッドに座ったままの彼女をジリジリと追い詰めていく。そしてようやっと自分の状況と俺の真意に気づいたのかアキラは距離を取ろうとするが遅かった。彼女の両手を掴む。プレゼントがベッドに落ちた。

「き、気持ちを伝えるためって、聞いた…」
「気持ちなァ…どんな?」
「そりゃ、日頃の感謝とか、そういう…!ッもういいでしょ、離してよ!」
「それだけか?」

さっきから合わない目がやっと、かち合う。

「本当にそれだけか?」

お互い目が逸らせない。アキラは唇を震わせて答えに戸惑っていたが、やがて諦めたようにぼそぼそと俺の耳元で可愛いことを言った。おさまるわけがなかった。二人分の重さにベッドが軋む。彼女はわずかばかりの抵抗を見せたが、同じように耳元で想いを伝えると、後はもう言わずもがな。

こんな風にただ傍で触れあうだけで満たされる。そんな想いは知らなかったんだ。
だから、ちゃんと伝えよう。

「俺だってアキラが好きなんだ」




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