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【Twitterお題140字SSをリメイク】


「待て」

強い力が私の腕を掴み、そのまま船の甲板へ体を叩きつけた。鈍い痛み。サニー号のクルー達がそれを見て一瞬息を呑んだ後、途端に騒然となった。だが、その痛みも騒がしさも、どこか遠いところで起きているように感じた。頭の中がやけに冴えている。まるで他人事だ

おい、と固い声が更に私を甲板へと縫い止める。周りの状況は見えなかったが、声と音でだいたいを把握できた。

この船の航海士が、必死に声をかけて"彼"を止めようとしている。船医が泣きそうな声を出して戸惑っている。狙撃手は混乱しているようだ、言葉が安定してない。船大工は珍しく慌てていて、多分目を白黒させてる。音楽家と考古学者は固唾を呑んで状況を把握しようとしているようだ。
ただ一人は落ち着いているようだが、この船のコックだけは明らかにいつもと違う声色で血相を変えてるのがわかった。彼に掴みかかろうとしていたのだろうが、その"ただ一人"に阻まれたようだ。話の内容は聞き取れなかったが、どうやらこの船の、コックの彼と一際仲の悪い隻眼の剣士に珍しく説得されたらしい。はじめは突っかかっていたけど、納得しきれなくとも言葉を呑んだようだ。みんなの視線がこちらに向いているのを感じる。

「よそ見するンじゃねぇよ」

なァ。逆光で顔が見えない男の胸板の傷が更に視界を塞いだ。細いけれど、逞しい腕が逃げ道を奪う。"彼"の切羽詰まった声が直に響いてきて胸の奥が切なくなった。なのに、彼しか見えないはずなのに…

「お前は、なんで俺を見ないんだよ?」

相変わらず顔は見えない。でも、声色がこれ以上ないほど悲壮に満ちて痛々しいくらいだった。それでも私にはその彼の気配と匂いが残酷なほど"あの人"を彷彿とさせるばかりで、

「あいつは…エースは!もうどこにもいねェんだぞ!?」

胸も痛まなかった。きっとその資格もない。あれから二年も経ってることが、どうしても受け入れられなかった。ー何も見えない。

ルフィの声が甲板に、海に響く。その場にいた他の誰も口を開くことはなかった。


『恋して愛して、憎んでる。』




エースの元恋人を想うルフィ。Twitterお題より


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