あの奇怪な死に方をした少女が地獄に、もとい鬼灯に引き取られてもう半年が経つ。 最初は見るからに子供には好かれないであろう彼と上手くやっていけるかどうか心配したものだが、存外良い関係を築けているようで安心していた。閻魔は書類への捺印をこなしながら脇に待機している鬼灯にちらりと視線を送る。 「本当に仲良いよねえ」 「急に何ですか、というか誰とです」 「いや、最初君がなまえちゃんの後見人になるって言い出したときはどうなることかと思ったけどさ、仲良くやってるみたいで何よりだよ」 「ああ…なまえはあれで16ですからね」 世話になる者に対して失礼な言動をしたりしないだろう、と言いたげな鬼灯にいやいや、と首を横に振る。 確かに礼儀はきちんとしているし彼女の鬼灯に臆さない度胸もそうだが、それよりも意外だったのはこの第一補佐官だ。相変わらずからかったりしているらしいが他の者に対する態度とは明らかに異なるそれ。 なまえの素直な反応を愉しみ、けれども度を越えて罵ったり苛め抜いたりはしない。可愛がるような素振りも見せる上彼女といる時には、滅多に見せない微笑さえのぞかせることもあるのだ。それも一瞬のもので、なまえが気付いているかは定かではない。 「鬼灯君の方も相当入れ込んでるんじゃないの?見ててそう思うよ」 「まあ、よく出来た嫁をもらった気分です」 「そう、嫁ねえ…嫁……嫁!?それってどういう意味!?」 「そのままの意味ですが」 「いやいや幼妻ってレベルじゃないけどね!?」 「冗談です」 「君が言うと冗談に聞こえない…」 何だか閻魔の突っ込むところも微妙に違う気がするが大方混乱しているのだろう、放っておくことにする。 朝は鬼灯の見送りを欠かさず、掃除に洗濯、繕い物など一通りの家事をこなし夜遅く帰ってきた自分を出迎える。 なまえは本当によく働く良い子だ。生前も生きるために労働に勤しんでいたらしいが、時代が時代だ。貧しさには敵わず息を引き取ることになってしまったと聞く。 しかし寝て起きても傍に居り、仕事から帰ってもあの溶けるような笑みで迎え入れられれば1日の疲れも吹き飛ぶというものだ。 「あれで本当に16なら申し分ないのですが…」 「え?何か言った?」 「いえ」 初めは興味本位で後見人に名乗りを上げたが、そんなことを思ってしまうくらいにはなまえに絆されているらしい自身に心の内で苦笑する。 言うほど冗談だとも思っていないらしい。 何やら不穏なことを思う鬼灯を察したのか冷や汗をかきながら閻魔が言葉を続けた。 「でもほら、初めて会ったときは大泣きだったじゃない。心配だったんだよね」 「あの時は雨が降っていましたからね」 「え?雨?」 「ええ、雨だとなまえの中にある雨童子の力が強くなるそうです」 「へー…確かその雨童子、生まれたばかりだったっけ」 雨天だと魂に潜り込んだ雨童子の力が強くなり、なまえに影響を及ぼすのだと鬼灯は言う。幼くしてその生が潰えてしまった雨童子に引っ張られるように精神的にも稚拙になってしまうらしい。 いやに小さな子供のように見えた理由はちゃんとあったのだ。 「そういえば、今日の夜から珍しく雨が降るらしいよ」 「…そうですか」 答えながら自室でせっせと床磨きをしているだろうなまえを想う。 今日はいつ頃に帰ることができるだろうか、と考えながら次の話題にうつったお喋りな上司を一喝し作業に戻らせたのだった。 |