楯山文乃
今日はやけに風が強いんだなぁ。
そんなどうでも良いことを考えて自分を誤魔化す。どんなに誤魔化してもやることは変わらないんだから意味ないんだけどね。
私、楯山文乃は今からここ、屋上から飛び降ります。理由、かぁ。理由はなんだろ、『諦め』かなぁ。どうにかしておかしくなったお父さんを止めようとしたのにもう何もかも遅かった。話しても駄目だったし。だからもういっかな、って。楽になりたい。みんなのためでもあるし。これなら私の死は無駄じゃない、みたいなね。お父さんの計画を壊すのにはもうこれしか手がないから。お姉ちゃん、最後にちゃんと頑張るからね。情けない姉でも最後だけはカッコつけさせて。
でもやっぱり私情けない。ここまで来てもやっぱり怖い。フェンスを越えると下に見えるのはコンクリートで出来ている通路で。木も無い、花壇も無い。落ちたら死ぬということを改めて感じられた。
アヤノ!何戸惑ってるの!早く飛び降りちゃえばいいんだよ。そうじゃないと折角の私の決意が無駄になるんだから。痛みなんて感じないよ。一瞬だから。
どう自分に言い聞かせても私の足は小刻みに震え、手を握り締めて歯を食い縛っても恐怖は消えない。何でこんな最後になって。私は何が怖いの。何に怯えてるの。私がいなくなったらそれでみんなは助かるんだから。それが私の望むこと。私が願ったこと。その気持ちに偽りも何も無いんだ。自分の命が惜しいなんて言いたくない。どうせならかっこよく逝きたい。
早く一歩踏み出そう。そうすれば全てが終わる。私の役目は果たしたよ。みんな、元気でね。
震えて動かない足を引きずるように宙に出す。あ、これってスカート捲れちゃうかな。えへへ、そんなこともうどうでも良いよね。誰も、来ないでね。こんな無様な姿、シンタローや先輩、家族になんて見られたくないもん。こんな、前にすら進めない私なんて。
「お姉ちゃん、やっぱりかっこわるいね」
誰に聞かせる訳でもなく呟くと私はやっと一歩を踏み出した。
なんでかな。今私とっても幸せだ。
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