朝比奈日和
あーあー。退屈。教室や廊下では男子が顔面崩壊しながらこちらを眺め。女子は私に媚びを売ってくる。なんてつまんない。
男子なんてどうせ私の顔目当て。少し目が大きくて、口が小さくて、周りより顔が整ってるだけ。単純よね。私の内面なんて誰も見てないわ。わがまま言ったって嬉しそうに聞いてくれるし。なんて便利な人たちなのかしら。
女子もそう。可愛い子に媚びていればやってけるっていう昔からのお決まり。私に媚びたってなんもないのに。何かをあげるわけでもない。ただ、可愛い子の近くにいれる自分に酔ってるの。要は自己満足ね。
教室の端から何を見るわけでもなくぼーっとしていると、不意に目の前に私の写真が落ちた。なによこれ。気持ち悪いわね。なんで私の写真なのよ?……これ確かこの前の社会科見学のときの写真だわ。盗撮のようなものでなくて少しホッとしたものの、それにしても気持ち悪い。自分が写ってる写真を他人が持っていたなんて。私がスッと拾い上げるとほぼ同時に近くにいた男子が悲鳴というか、叫び声をあげた。
『ああああああああっ!!!』
『なによ、これアンタの?』
ほぼほぼ喧嘩腰で聞くと、その男子は首が折れそうな程に首を縦に振った。うわ、こいつ絶対今首痛めたわよ。
『アンタのなら返すけど。なんで私の写真なんか持ってんのよ。キモい』
返す、という言葉に歓喜し、そのあとのキモい、という言葉に完全に半泣き。何こいつ。反応面白すぎでしょ。
『これは返してあげるけど、こういうことほんっとやめてくれる?キモいしウザいし最悪』
吐き捨てるように言い、写真を少し乱暴に返すと私は真っ直ぐ自分の席に戻った。一部始終を見てた周りの 女子はなんだかきゃあきゃあ騒いでるけどそんなこと私に関係ない。はあっ、と深い溜め息を吐き、あの男子はどうなったか、と後ろを振り返ると見事にフリーズしていた。ホントなんなんだ。コイツは。

なんで、私は公園にいるんだろう。しかもよりによっていつだかの写真の奴と。まぁ私が都会に来るのに誘ったにしても。そうじゃない。コイツはおまけだし、なにより私はコノハ様と一緒にいたいっていうのに。さっきからしんみりした顔してるけどなんなわけ?イライラしていると少し小柄な黒猫が擦り寄ってきた。可愛いわね。さっきまでの気持ちはどこか行ったみたいに今は黒猫に夢中になっていた。
『……猫、好きなの?』
どうやらコイツも猫が好きみたいで、さっきまでの辛気くさい顔はどこへやら。にっこりと微笑んでいた。コイツ、こんな顔もすんのね。
『好きよ』
短く答え、黒猫を持ち上げる。あら、意外と軽いのね。小柄だからかしら。もふもふと暖かいのに小柄で、軽いなんて羨ましいわ。この子きっと人に生まれてたらモテモテね。
しばらく猫を二人で黙々と撫で回していると、猫は撫でられることに飽きたのか、はたまた気まぐれか。急に道路へ走り出した。
そっちは駄目よ。危険なの。そんなに勢いよく走ったら車に跳ねられてしまう。しかも運が悪く信号は赤になったばかり。
私は咄嗟に走り出していた。何も考えずに。馬鹿ね。猫に追い付けるわけないのに。
後ろでアイツが叫んだ気がするけど、私は止まらない。いや、止まれない。追っていた猫は車の下を器用にくぐり、向こうの道へ。赤信号の横断歩道に残されたのは私1人。あ、私死ぬのね。人間死ぬ直前って走馬灯が見えたりするもんだって聞くけど、そんなもん見えないじゃない。時がゆっくりと流れ、嫌に冷静にはなっているけど。あはは。トラックのお兄さんたら酷い顔ね。助手席のお兄さんもそうだわ。二人共多分こんな時じゃなきゃかっこいいのに。しかも私を轢いたらこの二人はこの先まともに生きることなんてできないわよね。なんか悪いことしちゃったかしら。
スローモーションのように見えていても必ずその時はくるもので。ゆっくり、ゆっくりではあるけどトラックは私を轢いていた。血飛沫さえもゆっくり見えて、自分のものなのに気持ちが悪くなる。あ、私轢かれたから気持ち悪いのか。腹部に痛みが走り、地面に背中を叩きつけたせいで骨が砕ける。痛い。痛い。どうせ死ぬならこんな思いしたくなかったわ。腹部からの出血は止まらず、このまま死ぬんだと自分を諭す。全てを諦めて目を閉じようとした瞬間。アイツが走り寄ってきた。涙をボロボロと流し、私の横に倒れ込む。あーあ、顔がぐちゃぐちゃじゃないの。最後に見た顔はさっきの猫に微笑む顔で良かったのに。
でもなんだろ。この光景なんて今初めて目にするっていうのに。……前にもこのやりとりしてる?いやそんなことないわよ。でも、もう何度も、何度も繰り返したように思えて仕方がない。そして、今私の中になぜだか達成感があった。なんの、かさえ分からないけど。
『ヒヨリ。駄目よこんなんじゃ。アンタが死んじゃ意味ないのよ』
頭の中で声がする。この声は、私の声?私、遂に頭おかしくなったのね早く意識がなくなればそんなこともなくなるのに。
え、あれ?なんでアイツが二人いんのよ?顔をぐちゃぐちゃにして泣き叫ぶアイツと、ニヤニヤ笑ってる薄気味悪いアイツ。もう駄目だわ。幻覚まで見えてる。死ぬってこういうことなのね。ゆっくりゆっくりと意識が薄れて感覚がなくなってく。お父さん、お母さん。ごめんなさい。こんな馬鹿な死に方して。
じゃあね。みんな。

もう一回よ。もう一回。何度やったか分かんないけど、それでも私はやり直す。トラックに轢かれても、鉄柱に貫かれても、階段から足を踏み外しても。私やヒビヤがそんな死に方するなんて信じないわ。ヒビヤと私が二人、生きてる世界に辿り着くまで私はやり直す。きっと二人が生きてる世界こそ私が望む世界。私が幸せな世界。
prev * 5/13 * next
+bookmark
| TOP | LIST |
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -